闘技場の通路を歩いて
キャンベル事務局長はグルグル巻きにされたまま、喜び勇んで叫ぶ。
「ついに時は来たれり、サイクロプスはどこだ? それはそうと、この縄はなんだ!?」
すると、ガイウスとクラウディアは苦笑しながら顔を見合わせ、うなずき合った。
ガイウスは、持っていた短剣でキャンベル事務局長を縛っている縄を切り、
「キャンベルさんですな。私はダーク・エルフのリーダー、ガイウス。貴殿が帝都で武力闘争を開始しようという話を聞いたので、助太刀したい」
「なにっ!? ダーク・エルフだって? なんだかよく分からんが、助太刀ということは、味方が増えるということだな。結構なことじゃないか!」
キャンベル事務局長は、機嫌よく言った。彼をグルグル巻きにしたのはダーク・エルフたちだけど、その点は詮索しないようだ。先刻のガイウスによる(御都合主義的な)魔法が、まだ効力を保っているのだろうか。
「では、行こう! サイクロプスのところへ!!」
と、事務局長は、まるで自分がリーダーになったかのような口ぶりで言った。
わたしたちは、ガイウスを先頭(及び道案内)に、闘技場の巨大建築物内の通路を進んだ。通路の幅は、それほど広くなく、人が二、三人並んで歩けば一杯になってしまう。通路の両側の石壁は、一応、平らになるよう磨かれているものの、レリーフ等の装飾は施されておらず、なんとも殺風景な印象を受ける。
ちなみに、先ほどまでグルグル巻きにされ身動きのとれなかったキャンベル事務局長は、今や勇気百倍、ガイウスの隣で「急げ、急げ」とせわしなく体を(厳密に言えば、両腕をグルグル回すように)動かしている。
「なんだか……ね」
わたしは、ふとつぶやいた。特にこれといった感動や感想はないが、このまま黙って歩き続けるのは、少々辛い感じ。
クラウディアは悪戯っぽく、わたしの耳元に口を近づけ、
「単なる都市伝説と思いますが、うわさによれば、出るそうですよ」
「出るって? ただ、こういうシチュエーションなら、出るのは決まってるわね」
ありがちな展開としては、この闘技場を作るために大勢の人が人柱にされたとか、建設途中で大事故があったとか、闘技場建設前には実は墓地があったとかで、浮かばれない霊魂が化けて出て、みたいな。でも、いくらなんでも、そんなベタな話はないだろう。
通路はなおも先に続いている。闘技場の規模が思っていた以上に大きいのか、内部が迷宮のように複雑に入り組んでいるのか、どちらかだろう。なんだか、疲れてきた。早く目的地に到達したいものだ。そういったことを考えていると……
「うがぎゃあっ! なっ、なんだ、これはぁ!!」
先頭をガイウスと並んで歩いているキャンベル事務局長が、突如、叫び声を上げた。一体、何があったのだろう。




