プチドラの挙動不審
キャンベル事務局長は千鳥足でフラフラと、廊下の左右の壁に体をぶつけ、その度に「ウォー」とか「グァー」とか獣のような声を上げている。かなりの量を飲んでいるようだ。これからサイクロプスのところに連れていく予定だけど、あれだけ酔っていて大丈夫なのか、なんだか少し心配。
ガイウスも、あきれ顔で、
「確かに頭の悪さはサイクロプス並みだな。とりあえず、あの男の身柄を押さえよう」
そのガイウスの言葉を合図に、二人のダーク・エルフがまるで風のような速さでキャンベル事務局長に近づき、彼の腹部に強烈な突きを見舞った。魔法を使うまでもなかったようだ。キャンベル事務局長は「ぐぇーーー!」と、断末魔のような悲鳴を上げ、その場に倒れた。
「あの~、マスター、ちょっと……」
その時、プチドラが不意にわたしを見上げた。
「どうしたの、急に? 何か面白いものでもあるの??」
「マスター……、いや、これはこれでいいのかな。う~ん……」
何やら言いたいことがありそうだが……
一方、簡単にキャンベル事務局長の捕獲に成功したガイウスは、「うんうん」と満足げにうなずき、
「よし、一丁上がりだ。本当に、造作もなかったな」
ちなみに、キャンベル事務局長は紐でグルグル巻きに縛られ、気を失った拍子に眠ってしまったのだろう、大いびきをかいている。
ガイウスは、そのキャンベル事務局長の背中をトントンと何度か蹴飛ばし、
「じゃあ、次は、サイクロプスのところに行こう」
そのガイウスの合図を受けて、先ほどと同じように、(ガイウスの表現によるところの)空間に関する魔法に特に長けているダーク・エルフが、わたし、ガイウス、クラウディア及びキャンベル事務局長の傍らに立った。
その時……
「あの~、マスター、この際だから……」
突如として、またもやプチドラが、そう大きくない声を上げた。
ところが、空間魔法に長けたダーク・エルフたちが、テレポートの呪文を唱え始めているのか、口をモゴモゴと動かすのを見ると、
「まあ、いいか。別に、今日でなくても……」
と、プチドラは一人で納得している様子。一体、なんなんだか……
プチドラの挙動不審はともかく、ダーク・エルフが魔法の呪文を唱え終わると、その瞬間、周囲は先ほどと同じように、まばゆい光に包まれた。そして、次の瞬間には、あ~ら不思議、教団本部の建物の中にいたわたしとダーク・エルフ及びキャンベル事務局長は、全員、帝都の闘技場のすぐ前に、テレポートしていた。




