教団本部に侵入
ダーク・エルフが魔法の呪文を唱え終わると、その瞬間、周囲はまばゆい光に包まれた。そして、次の瞬間には、あ~ら不思議、ほんの数秒前までダーク・エルフの隠し部屋にいたメンバーは、全員、教団本部の入り口の門の前にテレポートしていた。門の向こうでは、4階建ての堅牢な石造りのビルディングがそびえている(といっても、真夜中なので暗くてよく見えないが)。
「いつものことながら、すごいわね」
と、わたしは後ろを振り向き、わたしをテレポートで連れてきた(と思しき)ダーク・エルフを見上げた。
すると、ガイウスは莞爾して、
「空間に関する魔法に特に長けている仲間の力を借りたんだ。本当に頼りになるよ。でも、感心するのはそのくらいにして、急ごう。キャンベルさんだっけ、サイクロプス並みの馬鹿さ加減……と言っては失礼かな?」
教団本部に来た理由は、サイクロプスと見合わせるためにキャンベル事務局長の身柄を確保すること。わたしはガイウスを見上げて小さくうなずき、プチドラを抱いて小走りに駆け出した。ガイウスやクラウディアたちダーク・エルフも、そのすぐ後に続く。ちなみに、門には鍵がかけられていたが、ダーク・エルフの魔法により簡単に解錠され、今や大きく開け放たれている。
「教団の本部って、どんなところなのかしら。なんだか、わくわくしますね」
「そうだな。ちょっとした迷宮探検みたいなものかもしれないぞ」
クラウディアもガイウスも、彼らにとって初めて足を踏み入れることになる教団本部に興味津々の様子。でも、エルフ的視点から見て面白いものは、あまり……いや、ほとんど期待できないだろう。
わたしたちは、教団本部の玄関から堂々と建物内に入り、キャンベル事務局長を捜した。今日はコーブ事務局長が教団本部を留守にする日、ということは、事務局長は酔っ払って獣のような声を上げ、本部内を徘徊しているはず。事務局長を恐れる教団信徒は、部屋にこもって鍵をかけ、じっと息を殺しているだろう。
程なくして……
わたしたちの進む廊下の奥から、ウォーとかグァーとか、およそ理性や分別ある人のものとは思えない声(あまり「声」という感じはしないが)が響いてきた。
すると、クラウディアはビクッと身震いして、
「あの、今のは? もしかして、サイクロプス並みの馬鹿という……」
「そうよ。キャンベル事務局長。ただ、サイクロプス並みの馬鹿でもサイクロプスほどの腕力はないから、あなたたちダーク・エルフにとっては、まったく脅威ではないと思うわ」
と、わたしとしては、こういう場合、苦笑する以外ないと思う。
その人外の叫びのような「ウォー」とか「グァー」は音量を増し、やがて、廊下の奥にその(有り体に言ってしまえば酔っ払いの)正体を現した。




