作戦開始
その日の夜遅く、日付が変わりそうな時刻になって……
「プチドラ、用意はできた?」
「準備OKだよ。ところで、マスター、これは良い意味だけど、そのメイド服、本当によく似合ってるね」
と、プチドラはわたしを見上げた。わたしが今着ているのは、くたびれたメイド服。これから、ダーク・エルフとともに、まずは唯一神教本部に赴き、キャンベル事務局長を捕まえてから、サイクロプスのいる闘技場に向かう予定。メイド服で教団本部に行くのは、特に理由はないが、あえて言えば、あまり教団ユニフォームを着用したくないという気分の問題。仮に、もめ事が持ち上がったとしても、プチドラやダーク・エルフがいるのだから、どうとでもなるだろう。
わたしはプチドラを抱き、誰にも見つからないよう慎重に「開かずの間」に向かった。そして、プチドラの魔法の呪文で「開かずの間」のドアを開け、さらに、部屋の床に設けられた扉から隠し通路を通って、賃貸しているダーク・エルフの隠し部屋に。隠し部屋の前で一応(社交辞令として)コンコンとノックして、入り口のドアを開けてみると、
「やあ、来たね。待ってたよ」
「カトリーナさん、いらっしゃい。でも、すぐに出発ですね。紅茶は、事が終わってから祝いの席で楽しむことにしましょう」
隠し部屋で待ってたのは、リーダーのガイウスとクラウディアに加え、数名のダーク・エルフだった。
「こんばんは……って……、え~、なんというか……、メンバーは、ここにいる人……いえ、エルフだけ?」
正直、もっと多人数での集団行動を予想していたので、少々拍子抜けしたみたいな感じ。
しかし、ガイウスは「ハハハ」と事もなげに笑い、
「問題ない。実は、他のメンバーは既に動いているんだ。闘技場のサイクロプスの周囲には見張りくらい付いてるだろうから、それらを排除しないとね。他にも、細かいところで、いろいろと……」
なるほど、言われてみれば、そういうこともあるだろう。いつもながら、ダーク・エルフのすることにはそつがない。
ガイウスはクラウディア及び他のダーク・エルフの顔を見回し、準備ができていることを確認したのだろう、何度かうなずき合うと、
「では、作戦開始といこう。作戦名のような仰々しいものは決めてないけど、それは構わないだろう」
そのガイウスの言葉を合図に、わたし、ガイウス、クラウディアの背後に一人ずつのダーク・エルフが立ち、それぞれ右手を、わたし、ガイウス、クラウディアの右肩の上にポンと置いた。そして、口を何やらモゴモゴと動かし、魔法の呪文を唱えている様子。過去のパターンから察するに、テレポートで一気に教団本部まで飛ぼうというのだろう。




