サイクロプス来訪
晴れ渡った空の下……
ズシーン! ズシーン! ズシーン!
帝都では、まるで(古典的な)巨大ロボットのような重厚な足音を伴い、一つ目巨人サイクロプスが大通りを揺るがしていた。帝都市民はこぞって沿道に集結し、この尋常ならざる巨体(しかも異形)に見入っている。ちなみに、サイクロプスの身長は、4階建てのビルくらい。手にする武器の棍棒も超巨大サイズで、小さい家なら一撃でバラバラにすることができるだろう。
この日、サイクロプスが帝都に到着するという知らせを耳にしたわたしは、主に野次馬根性から、質素なメイド服を着てプチドラを抱き、アンジェラとアメリアとともに、帝都の一般市民に交じってサイクロプスの見物に出かけていた(もちろん、道案内はアンジェラとアメリアの二人にお任せ)。
アンジェラは、サイクロプスの規格外の巨体から放たれる威圧感に圧倒されたのか、
「すごい……ですね」
と、あんぐりと口を開け、その場に立ち尽くしている。
「え~と、え~と、え~と……」
アメリアもまた、度肝を抜かれたのか、驚きを表現する言葉が見つからないようだ。
サイクロプスは、やがて、集まった人々の歓声とも悲鳴ともつかない大きな声のハーモニーに包まれ、帝都の闘技場に向けて去っていった。聞くところによれば、サイクロプスには適当な宿泊先がなく、しばらくは闘技場の真ん中に巨大なテントを張り、野営のようにして過ごすらしい。体が大きすぎるのも、何かと不便なものだ。
ちなみに、サイクロプスの頭の悪さの利用法についてガイウスやクラウディアと話し合ってから、今日で一週間。その間、何度かダーク・エルフたちと打合せやミーティング(を名目としたお茶会)を行ったけど、計画は、基本的には当初のわたしの提案のとおり実行される手筈となっている。なお、コーブ事務局次長については、ダーク・エルフたちの秘密の情報網により、今日から帝都の一等地のウェストゲート公の屋敷でお泊まり旅行という確証を得た。今のところ、事はわたしの目論見のとおりといったところ。
「さて、目当てのサイクロプスも見たことだし……」
わたしはアンジェラとアメリアの肩をポンとたたいた。これは、すなわち、「用が済んだから帰ろう」という合図。しかし、アンジェラもアメリアも、もう少し街中の散策でも楽しみたいのか、「えっ、もう?」という表情。
その時……
モォー! モォ-! モォー! モォー! モォー!
にわかに聞こえてきたのは、牛の鳴き声だった。しかも、一頭や二頭ではなく、何十頭か何百頭か……、正確な数が把握できないくらい。
程なくして、わたしとアンジェラとアメリアの前を、二列縦隊の牛の行列が、非常にゆっくりとした速度で通り過ぎていった。おそらく、この牛は、「大盤振る舞い」でのツンドラ侯とサイクロプスとの対決(予定)の後、バーベキューにされる運命なのだろう。




