エルフの心根
わたしは紅茶をひと口、その香りと風味を味わいつつ、
「ツンドラ侯は、かなり気合いが入ってたわ。でも、常識的には、かなうはずのない相手よね」
「そうだな。サイクロプスは、パワーだけなら、最強クラスと言っていいだろう。ただ、魔法は使わないし、頭も悪い。しかも、とてつもなく悪い」
ガイウスは、そう言って笑った。ちなみに、ガイウスによれば、サイクロプスとは、20を超える数の計算ができず、常人なら簡単に見破れるようなウソにも簡単にだまされてしまうという、ある意味、哀れな連中とのこと。サイクロプスの知能が小学校低学年程度という話は聞いていたが、小学校低学年のうちでも、劣等生に近い知的水準らしい。
わたしはティーカップを机の上に置き、
「でも、そんなに簡単にだまされるなら……、頭の悪さを利用できるかもしれないわね」
「利用するというと、具体的には、どういうことかね?」
ガイウスは、少々興味を引かれた様子で身を乗り出した。
「例えば、サイクロプスをうまいことだまくらかして……、例えば、『あなたは実は帝国宰相に狙われている』みたいな嘘八百を並べて、宮殿を攻撃させるとか……」
すると……
ガイウスもクラウディアも、一瞬、「えっ!?」と呆けたように口を開けた。一体、どうしたのだろうか。こういう反応をされると、言い出したわたしの方が(理屈抜きに)恐縮してしまうような……
「わたし、何か妙なこと言ったかしら?」
「いや、そうではない。そうか、そういう手もあるのだな。そこまで思い至らなかった」
ガイウスは感心しているのか、「うんうん」と何度もうなずいている。
クラウディアは、ニヤリと悪戯っぽく笑い、
「カトリーナさん、悪人ですね。わたしたちには、そういう策略はまったく思いつきませんでした。でも、言われてみれば、なるほど、素晴らしい提案だと思います」
「そう…… なの?」
わたしは不思議な気がして首をかしげた。孫子・呉子や六韜三略をひもとくまでもなく、振り込め詐欺の例でも明らかなように、愚鈍なる者は知的強者を富ませる肥やしになるのが世の習い。しかも、一般論として、エルフの知的水準はかなり高いはずだ。
プチドラは、少々苦笑しながら、わたしの耳元に口を近づけ、
「エルフには、基本的に、だまし討ちするとか罠やペテンにかけるとか、そういった発想はないんだよ」
わたしは、分かったような分からないようなだけど、とりあえずは「ふ~ん」とうなずいた。エルフがそういった素朴な、あるいは純朴な心根の持ち主なら、そういうものとして納得する以外ないだろう。だからこそ、いつまでたっても「すべてのエルフの母」を救出できないのかもしれないが……
「ところで、その、頭の悪さを利用する具体的なプランがあれば、聞かせてほしいのだが」
ガイウスは、真剣な眼差しでわたしを見つめた。




