エルフの丸薬
クラウディアは、キラキラと輝く丸薬をひとつ取り出した。丸薬と言えば、この前アメリアに飲まされた、どこから見ても某ラッパのマークの黒い丸薬を思い出すけど……
「さあさあ、これを飲んで下さい。そうです、ゴクッと、一気に」
クラウディアは、わたしの口をこじ開け、強引に水で流し込む。
すると……、あ~ら不思議、なんとも言いようのない吐き気、寒気、頭痛、目まい、胸の動悸等々が綺麗サッパリ消え、今や気分は最高、コンディションは絶好調に。
クラウディアは身をかがめてわたしの顔をのぞき込み、
「どうですか? よくなりましたか?」
「ありがとう。なんだか分からないけど、すっかりよくなったみたいよ。ラッパのマークの……いえ、ほかの薬では、こうはいかないわ」
「ふぅ、ようやく、生き返った気分だよ。やっぱり、エルフの秘宝は効果覿面、ゲテモンより強しだね」
隣では、プチドラが金貨のいっぱいに詰まった袋から抜け出して、ピョンピョン跳びはねていた(ガイウスから薬を飲まされたのだろう)。
エルフの丸薬により、どうにかマトモに話ができるようになったところで、ガイウスがおもむろにゴホンと咳払いをして、
「では、ようやく本題……と言ってよいのかな。いや、そういう大した話じゃないんだが、つまり、情報交換でもしようかと思ってね。加えて、このところ、ずっと顔を見てなかったから、元気にしてるかな……、ということもある」
「そうです。なので、情報交換は名目……いえ、そうでなく……」
クラウディアは一瞬ハッとして、しかし、その次の瞬間には「あら、やっちゃった」みたいな顔で、
「つまり、そういう意味なのですが、お分かりいただけたかでしょうか」
「ええ、よく分かったわ。そういうことなら、喜んで」
わたしも思わず苦笑い。端的に言えば、ダーク・エルフたちはヒマなのだろう。
こうして、わたしの部屋では(クラウディアが風のように素早く、地下のアジトからティーセット等々を持ち込み)、深夜のお茶会が始まるのだった。
「このごろは、なんだねぇ……」
ガイウスは「ふぅ~」と、大きく息を吐き出した。まるで、ゆったりとくつろいで天下太平を満喫しているような雰囲気。見た感じでは、「すべてのエルフの母」の救出活動が進展しているような気配はない。
クラウディアは紅茶を口元まで持ち上げ、その香りを楽しみつつ、
「そういえば、近々、帝都でイベントが催されるということですね。史上『最馬鹿』対決、いえ、最凶……、ちょっと違いますね、なんでしたっけ」
ダーク・エルフたちも、ツンドラ侯とサイクロプスが対決することを知っているようだ(既に公表済みの情報だから、当然かもしれないが)。ただ、「最馬鹿」対決とは、なかなか、言い得て妙ではないか。




