神話の山地の珍味展
目の前には、おどろおどろしいゲテモン屋の看板が、来る者を威圧するように掲げられている。わたしはプチドラと、もう一度、真っ青な顔を見合わせた。ここは、覚悟を決める以外ないだろう。
ツンドラ侯は、御機嫌に「うぉー」と声を上げて、入り口のドアを開け、
「おい、オヤジ、また来てやったぞ! 今日は何を食わせてくれるんだ?」
すると、店の中からは、「いらっしゃい」と、店のオヤジの威勢のよい声が響いた。店の中には既に、非常に貧相な身なりの人たちが数人、得体の知れないものを口に運んでいる。
ツンドラ侯は、店のオヤジを正面にしたカウンター席(その真ん中の席)にドンと腰を下ろし、
「今日は、なんだっけ? アレだよな、アレ、『神話の山地の珍味展』だ。頼むぜ!!」
わたしはプチドラを膝に乗せ、ツンドラ侯の隣の席に腰掛けた。今日は、一体、どんな目に遭わされるのだろう。刑の執行の瞬間を待つ死刑囚の心情とは、このようなものだろうか。
しばらく待っていると、オヤジが、料理の盛り付けられた大皿を幾つか、自分の胸の高さ程度に持ち上げながら、カウンターの奥から現れた。
「お待たせしました。当店自慢の珍味の数々でございます」
ああ、来るべき時が来たか…… わたしは思わず目を閉じた。
ところが……
「うぉー、この蒲焼き、いけるぞ、最高にうまいぞ! それに、なんだ、これ、タンシチューか。こっちも素晴らしい、やはりオヤジ、おまえは天才だ!」
「えっ? 蒲焼き?? タンシチュー???」
わたしは(さっきとは逆に)思わず目を開けた。目の前に置かれていたのは、見た目、普通の鰻の蒲焼きとタンシチューそのもの。プチドラも、不思議そうな顔をしながら、じっとその蒲焼きとタンシチューに見入っている。
ツンドラ侯は大きな口を開けて、その怪しげな(しかし、見た目はおいしそうな)蒲焼きとタンシチューを同時にほおばり、
「どうした、ウェルシー伯、今日は体調でも悪いのか? ならば、そういうときこそ、栄養のあるものをたくさん食べるんだぞ!!」
すると、店のオヤジはニッコリとして、
「気に入っていただけたようですな。今、お持ちしましたのは、メデューサの髪の毛、つまり蛇の蒲焼きと、ミノタウロスのタンシチューでございます。そして、次にお持ちしますのは、本日のメーン……」
オヤジはそう言って、一礼すると、カウンターの奥に姿を消した。
程なくして、オヤジが持ってきたのは、大きな……、人の足くらい大きさの超特大の鳥肉のような……
「お待たせしました。景気づけにひとつ、ハルピュイアのささみ刺身でございます」
オヤジは笑みは、わたしの目にはまるで悪魔のように見えた。三度目、超特大暗転……




