ブタとゴリラの競演
宮殿の長い廊下の奥から歩いてきたのは……
「ひっひっひっ……、いよいよ来週ですか、楽しみにしておりましたぞ」
「ほっほっほっ、今度は少々趣向を用意しましてな、いやはや、なんとも……ですな」
「うひょー、趣向は見てのお楽しみというわけですか。さすがですな、感服ですぞ」
もはや説明は不要だろう、三匹のブタさんたち(ウェストゲート公、アート公及びサムストック公)だった。例によって、出っ張った腹を大きく揺らせ、その姿は、まさしく服を着て歩いているブタそのもの。わたしは思わず「ああ」と嘆息し、プチドラを抱いて太い柱の陰に身を隠した。
ブタさんたちは今回もまた、わたしの隠れている柱の前で輪になって、「ひっひっひっ」とか「ほっほっほっ」とか「うひょー」とか、聞くに堪えない淫猥な話に花を咲かせている。コーブ事務局次長が言ってた野暮用が、三匹のブタさんたちによって裏付けられる形となったわけだけど、それにつけても……
ちなみに、プチドラは、やはりこういう人情の機微に触れる話は理解しがたいのだろう、ぶたさんたちの話を聞きながら、ハテと首をひねっている。
しばらくすると、三匹のブタさんたちは口元から垂れているよだれをぬぐい、固い悪手を交わし、立ち去っていった。
わたしはヘタリとその場に座り込み、
「本当に……、今日も厄日ね。よりによって……」
昨日もそうだったけど、宮殿に来て最初に目にするのが三匹のぶたさんとは……、ぶたの神様に恨まれるようなことでもしたのだろうか(豚肉は、ブランドものなら食べることはあるけど……)。
「でも、こんなところでへばっているわけにはいかないわ」
わたしはプチドラを抱き、「よいしょ」と立ち上がった。
その時……、巡り合わせとはこういうものなのか、
「お、おおぉ! そこにいるのは、ウェルシー伯ではないか!!」
柱の陰から廊下に出ると、そこにいたのはツンドラ侯(及びニューバーグ男爵)。その瞬間、ゲテモン屋の看板のビジョンがわたしの脳裏をよぎり、わたしは体をこわばらせた。
「本当に久しぶりだなあ。今まで元気だったか? 俺様は……、まあまあかな」
ツンドラ侯は笑顔で言った。でも、わたしには、かなり違和感。声に張りがないし、いつものツンドラ侯なら「うぉー」とハイテンションで、有無を言わせずわたしをゲテモン屋まで連れて行くはず。2メートル30センチを超える巨体が、今日は非常に小さく見える。
不思議なので、ツンドラ侯の傍らにいるニューバーグ男爵に尋ねてみると、
「実は、例の『大盤振る舞い』の出し物の件なのですよ。本日、バーベキューの食材についての会議が行われたのですがね……」
ここまで聞いたところで、わたしはプチドラと顔を見合わせ、なるほどと納得。




