馬車は教団本部へ
わたしは極力、キャンベル事務局長と目を合わせないよう注意しながら(これはつまり、事務局長から「お友達」や「仲間」みたいに思われるのはイヤという心情の表れ)、
「あの~、『ブタ野郎ども』を成敗……ですか?」
「そうだ! 当たり前だ。トンカツにしてブタのえさにしてやる!! そのための聖戦士なんだぞ、そうだ、聖戦士の唯一神の力が、ブタを丸焼きにして地獄の火の中に投げ込むんだ!!!」
キャンベル事務局長は、自分で何を言っているかよく分かっていないと思うけど、彼の言いたいところを整理すると、聖戦士の使命は信仰上の敵を撲滅することであり、その使命には、「ブタ野郎ども」(ウェストゲート公、アート公及びサムストック公のこと)の屋敷を襲撃して彼らを皆殺しにし、ついでに帝都の宗教界や帝国政府に目に物見せてやることも、当然含まれる。ただ、これまでは戦力的に十分でなく、思い切った攻勢に出るためには、もう少し戦力を充実させる必要があったとのこと。
そして、キャンベル事務局長は、意味ありげに拳をぐっと握りしめ、
「で、今日だ! おまえが信徒だったとはな。エリート信徒なのは面倒だが……、とにかく、ありがたく思え、今日からおまえは俺の配下、聖戦士に編入してやるからな!!」
「えっ!?」
わたしは思わず言葉を失い、目が点。この人、武芸の力量はともかく、ハチャメチャぶりにかけては、ツンドラ侯に引けを取らないのではないか。
その間にも馬車は、教団本部へと続く道を疾走していた。
そして……
馬車はやがて、4階建ての堅牢な石造りの教団本部に到着した。
キャンベル事務局長は、わたしの腕を引っ張り、
「よし、これからレベッカのところに行くぞ!」
と、半ば引きずるようにして、教団本部の最も奥まった場所にあるコーブ事務局次長の部屋に急ぐ。事務局長と一緒にいるせいか、廊下には、人っ子一人見当たらない。
キャンベル事務局長は、事務局次長の部屋の前まで来ると、ドンドンドンドンと猛烈な勢いでドアをたたき、
「レベッカ! いい知らせだ、ドアを開けろ、早く!! 今日は拾いものだ、秘密兵器、切り札が見つかったんだぞ。もう、あんなブタと一緒にいることはないぞ!!!」
口に出した本人でなければ、多分、意味が分からない表現だけど、ともかくもドアが開き、
「一体、なんなの? 騒々しいわね」
と、コーブ事務局次長が顔を出した。
事務局次長はわたしの姿を目にするなり、「えっ!?」と少々驚いた表情になり、
「あら、あなた……、それに…… どういうこと? 妙な取り合わせね」
「取り合わせはどうでもいい! あのブタどもを、ギャフンと言わせてやるんだ!!」
キャンベル事務局長はわたしの腕を引っ張り、ドアをこじ開けるようにして、コーブ事務局次長の部屋の中に躍り込んだ。




