本質的に他人の話を聞かない人
「あ……あなた、カトリーナさんでしたか。いやあ、そんなこと……、正直、気がつきませんでございましたですよ、失礼いたしました」
チャック支部長は、まだ動揺が収まりきらないのか、話しぶりが少々おかしい。
一方、キャンベル事務局長は、さほど驚きもせず、実に堂々として(厳密に言えば、「堂々」ではなく「厚顔」の方が正確のように思われる)、
「助けてくれたなら、感謝せねばならんな。ありがとよ」
そして、持っていたメイスを置いて、チャック支部長に顔を向け、
「おい、チャック、おまえ、この娘と面識があるようだな。誰なんだ?」
と、真顔で言った(本当にわたしが誰か分かっていないようだ)。わたしは思わず、目が点。チャック支部長が久しく会っていないわたしの顔を忘れたのは分からないではないが、教団の事務局長が、教団本部で頻繁に見かけるはずの教団中枢メンバーの顔と名前を忘れてどうするのだろう。
一方、チャック支部長は、キャンベル事務局長に対しては、自分をよく見せたいとの本能が働くのか、再びポーカーフェースを作り直し、
「彼女は、以前、当支部からエリート信徒に推挙いたしました、カトリーナ・ウッドさんです。彼女は実に素晴らしい。攻撃魔法の能力に関しては、誰も及ぶ者はなく……」
と、まるで自分のことのように、わたしを褒めそやす。いつぞやの話で、「奇跡の力」を持つ者を見つけ出し教団本部に推薦した支部の支部長は、教団内での評価が上がるとのことなので、チャック支部長にとって、わたしを褒めることは、自分の人材獲得能力をアピールすることと同義なのだろう。
ところが、キャンベル事務局長は、チャック支部長の話を最後まで聞いていなかった。
「そうか、分かった、分かった、分かった……」
と、本当に分かっているかどうかは分からないが、何度もうなずき、
「分かった……が、しかし、カトリーナさんよ、その格好は、なんなんだ」
事務局長は、しげしげとわたしを見つめた。さっき、「教祖様直々の特命」と言ったばかりなのに、もう忘れたのだろうか。事務局長は、本質的に他人の話を聞かない人なのだろう。
仕方がないので、特命について適当に(要するに、教団のユニフォームで宮殿に出入りするわけにいかない旨を)説明すると、事務局長はこちらの話が終わる前に、どういうわけか「よしっ」と気合いを入れ、
「ということは、おまえは俺の配下というわけだな、間違いないな。つまり、我が方の戦力も整ってきたということだ。これから本部に戻る。おまえも一緒についてこい」
キャンベル事務局長は上機嫌に言った。「おまえ」とは、わたしのことだろう。でも、今ここで急に、「ついてこい」と言われたって……
「あの~、事務局長、先ほどから申し上げていますように、わたしは今現在、特命を受けて宮殿に出入りしているわけで、『ついてくる』も何も、その特命が……」
「特命だって? そんなもの、関係ない。事務局長の俺が言ってるんだ。だから、間違いなく、関係ない。とにかく行くぞ」




