神がかり行者は神出鬼没
武装盗賊団は馬を走らせ、あっという間に、団子状態になった唯一神教の信徒たちを取り囲んだ。唯一神教にも武装盗賊団にも関係のない一般の市民は、既に逃げ出しており、今公園にいるのは、唯一神教信徒と武装盗賊団と、もう一人……のはず。ところが……
「あれ? 神がかり行者はどこに行ったのかしら。おかしいわね」
神がかり行者は、忽然と姿を消していた。ほんの数秒前まで、唯一神教信徒の団子の中にいたのに。
「あの人は神出鬼没だからね。きっと、こういうこともある」
プチドラは腕を組み、自らに納得させるように「うんうん」とうなずいている。神がかり行者が神出鬼没という点についてはわたしも同意だけど、せっかく登場したのだから、もう少しストーリー的に盛り上げていってくれてもよかったのに……
でも、それはそれとして……
やがて、唯一神教の信徒たちを取り囲んでいる武装盗賊団のうちの一人が(多分、リーダーだろう)、自ら騎乗する馬を半歩前に進めると、右手を上げて合図を送った。すると、先ほどからやかましく耳に飛び込んできていた不気味なコーラスが止み、公園は(音響的には)静けさを取り戻した。
「よこしまなる教えを信奉し、我々に刃向かう、愚かな者どもよ!」
その武装盗賊団の一人(多分、リーダー)が口を開いた。あえて唯一神教と会話(あるいは交渉)する必要はないと思うけど、武装盗賊団にも、彼らなりの美学やポリシーといったものもあるのだろう。
ちなみに、教団側から応じたのはチャック支部長で、支部長は、キャンベル事務局長の背中に隠れるようにして、
「異教徒ごときが何を言うか! 唯一神を畏れよ、降参するなら今のうちだぞ!!」
しかし、緊張しているのか、慣れていないのか、声は上ずっているようだ。
わたしは物陰でプチドラを軽く抱き上げ、
「唯一神教VS武装盗賊団か。前にもあったわね。唯一神教の聖戦士といっても、所詮、素人。前は全然相手にならなかったわ」
「そうだね。今回も、唯一神教は、ほぼ一方的にやられちゃうんじゃないかな。マスター、この前みたいに、魔法で助太刀する?」
「たのむわ。とりあえず、キャンベル事務局長には生きていてもらわないと。介入のタイミングが来たら声をかけるから、よろしく」
すると、プチドラは「任せて」というように、小さな手を小さな胸にポンと当てた。
ただ、それにつけても……、わたしが今、武装盗賊団が唯一神教を攻撃する現場に居合わせているのは、何かの因縁だろうか。先刻、宮殿で帝都の宗教界の代表と会ったとき、「唯一神教を攻撃してもよいというお墨付き」みたいな話になっていたけど、「昨日の今日」ならぬ「さっきの今」で(物理法則を超越するように)、帝都の宗教界の代表が武装盗賊団に唯一神教の撲滅を依頼し、武装盗賊団が動き出したということもあるのだろうか。でも、まさか……
「マスター、どうしたの? 何か考えてるみたいだけど」
プチドラは、不思議そうにわたしを見上げていた。




