コリー最高神官官房次長再び
次官室に駆け込んできた職員は、青白い顔をしてブルブルと体を小刻みに震わせながら、
「大変です。来ました。また、あの人たちが!」
「なっ、なに! 今日もか!?」
総務部長は、瞬時に色を失った。「あの人」とは誰なのか、断片的な情報では意味不明と言いたいところだけど、これまでの流れから考えれば、帝都の宗教界の代表が神祇庁に押しかけてきたと考えるのが自然だろう。総務部長を始め神祇庁の職員に、こうも恐怖感を植え付けるなんて、「宗教界」とは一体何者なのだろうか。本当のところ、暴力的自由業的世界ではないか(それはさておき、先刻、帝都の宗教界の代表が宮殿の廊下を歩いていたのは、神祇庁まで出向く途上だったのだろう)。
総務部長は、涙でクチャクチャになった顔でわたしを見つめ、
「次官、これには次官の責任もあるんですよ。ですから、ですからぁ!」
「分かったわ。要は、帝都の宗教界の代表が二度と神祇庁に来なければいいんでしょ。わたしがガツンと言ってあげるから……」
程なくして次官室に、十数人の帝都の宗教界の代表が、ゾロゾロと(緩慢な動きで)入ってきた。彼らと顔を合わせるのは、いつだったか、会議室みたいなところで話を聞いて以来のこと。宗教界の代表は全員、一様に白っぽい衣服を身につけているが、生地の微妙な色合いや、ボタンやベルトの位置、襟、肩、袖などに施された装飾に違いがあるようだ(この前にも気がついたかもしれないが)。
「本日は神祇庁次官がいらっしゃいます。これは、なんという幸運、我らが神が引き合わせて下さったのでしょう」
宗教界の代表のうち、先頭で次官室に入ってきた男が、最初に口を開いた。その男は、ほんの少しの間を置くと、ふと思い出したように、
「念のため申し上げますと、私は、最高秩序神に仕える神殿において、最高神官官房次長を務めておりますジェフリー・アルバート・コリーでございます。まさか、お忘れということはありますまいが、念のため」
「覚えてるわよ。そのコリーさんたちが、今日はなんの用?」
わたしは簡潔に言葉を返した。ちなみに、(言うまでもないと思うが)その男の名前は、すっかり忘れていた。
「以前、唯一神教の取締りに関することでお願いに参りました際、神祇庁次官からは、『対応を検討する』というお答えをいただきました」
「そんなこともあったわね。でも、それがどうしたの?」
すると、コリー最高神官官房次長は、こういう反応を全く予想していなかったのだろう、「はて」と首をひねり、
「え~、それは、どういう意味でございましょう。我々としましては、帝都の宗教界を代表し、唯一神教を名乗る怪しからぬ輩にどう対処するか、神祇庁次官のお考えを……」
と、くどくどと話し始めた。ここは、ひと言、「検討結果を聞かせろ」と言えば済むところだろう。大仰な肩書きを持つ人の話は、往々にして長い。




