正式な発令
そして、数日後、今回新たに就任する文武百官が順番に宮殿に呼ばれ、正式の発令が行われた。官位によっては皇帝陛下直々に、でも、わたし(神祇庁次官)は、帝国宰相から辞令の交付を受けた。
その際、宰相はわたしの耳元でそっとささやく。
「特命の件も含めて、よろしく頼むぞ。」
「努力はしますが…… しかし、どうなることやら……」
わたしがニッコリと微笑みを返すと、帝国宰相は、ちょっぴり渋い顔。わたしは、その辞令を持って、早速、神祇庁に向かった(正確には、神祇庁から迎えに来ていた総務部のナントカ(名前は忘れた)課長に案内されて)。なお、「神祇庁」と言っても、そのような名称の立派な建物があるわけではなく、宮殿内に、神祇庁長官室、次官室、典礼部、調査部、総務部など、いくつかの部屋があてがわれているだけらしい。
次官室では、前任の次官ではなく、総務部長が2、3枚のペーパーを持って、わたしを待ち構えていた。部長クラス以下は貴族の身分を有する者があてがわれるのではなく、今回の異動の対象でもないとのこと。また、神祇庁長官は、皇族の中でも長老クラスが任命されるのが慣例の儀礼的・名誉職的ポストという。であれば、神祇庁の実質的なトップは、次官であるわたしということになるのか?
総務部長は極めて事務的に、神祇庁の歴史的沿革や、神祇庁次官の仕事について説明した。でも、説明の内容は、ほとんど、いや、まったく、わたしの頭に入らない(もともと、やる気ゼロだし……)。ただ、忙しくなさそうな役職であることは、間違いなさそう。
「要するに、ルーチンワークとしては、決済のハンコを押せばいいだけなの?」
「有り体に言ってしまえば、そういうことでございますが……」
「ところで、神祇庁長官はどこ? 一応、挨拶しておいた方がいいのかしら?」
「長官ですか。長官は、諸事情により現在は空席となっております。いずれ、どなたかしかるべき方が着任されるとは思いますが、その時までは、形式的ではございますが、皇帝陛下自ら長官を兼任され、最終決済も皇帝陛下と。ただ、これは、あくまでも形式的・事務的な割り振りということでございます」
なんとも……、ただ、ありがちな話ではある。
ひととおり説明を聞き終わると、わたしは、勤務初日だからというわけではないが、とりあえず(総務部の隣の)次官室の次官の椅子に腰掛け、ちょっと休憩。それなりに高級品が支給されているのだろう、座り心地はなかなかのもの。
机の上には決裁文書が積み上げられているが、それほど大量にあるわけではなく、高さは1、2センチといったところ。今度時間がある時に、適当に片付けてしまおう。
また、背面には大きな窓が設けられ、日当たりは良好。事務所・オフィスとすれば理想的な立地だろう。さらに、壁に沿って、資料や書物がギッシリ並べられた本箱が幾つも置かれ、まるで壁一面が資料や書物に占拠されているような印象を受ける。それなりに歴史ある役所のようだから、永久保存の公文書のような類も多いのだろう。




