ついていない日
しばらく宮殿の廊下を進んだ後、
「さて……」
と、わたしは周囲を見回した。しかし……(次の言葉が出てこない)……
プチドラは、わたしを見上げ、
「マスター、いつものことだけど、もう自分が宮殿内のどこにいるのか分からなくなってるね」
これは、例によって、既に迷子になっているということ。でも、いつものことだから、多分、いつものように、なんとかなるだろう。
事実、程なくして、プチドラは薄暗い廊下の先を指し、
「マスター、見て。あのシルエットは、なんというか、なんとも言いようのない、あの人たちだよ。いや、人じゃなくて、ブタさんかな」
プチドラが指さした先には、肥満体の三つの影が見えた。
「宮殿に来て最初に目にするのが、アレ……、ブタさんたちなんて、今日はついてないわ」
と、わたしは思わずため息。
三人(三匹?)は、腹を突き出して、いかにも「私はエライ」という調子で、ふんぞり返って歩いてくる。わたしはプチドラを抱え、すぐさま近くの柱の陰に身を隠した(わたしには、三匹のブタさんたちと正面から対峙する勇気はない)。
そのまま、しばらく待っていると……
「いや~、今回の『大盤振る舞い』は、実に趣向を凝らしておりますな」
「皇帝陛下の寛大な御心を示すための良い機会ですぞ。大いに盛り上げていきましょうぞ」
「左様。帝国宰相がなんと言おうと、皇帝陛下の御心ですからな」
歩いてきたのは、果して、アート公、ウェストゲート公、サムストック公のトリオ……、いや、三匹のブタさんたちだった。出っ張った腹がユラユラと、大きく波打っている。
「ところで、ひっひっひっ……、例の『彼女』。先日は最高でしたな」
三匹のブタさんたちは、わたしの隠れている柱の前で立ち止まり、輪になった。ブヨブヨと脂肪で膨れ上がったその顔は、まさしく、ブタ! ブタ!! ブタ!!!
「ひっひっひっ……、先日は、本当に最高の時を過ごさせていただきましたな」
「ほっほっほっ、気に入っていただけましたかな。いやはや、なんとも言えませんな」
「うひょー、あえて言わせてもらいますぞ。よもや一度限りということはありますまい」
ブタさんたちは、今回も猥談で盛り上がっている。その内容は、想像したくはないが、コーブ事務局次長のいわゆる枕営業に関することだろう(それ以外はあり得ない)。もしかすると、元々の相手であるウェストゲート公だけでなく、アート公やサムストック公も加わり、さらに、ノーマルなプレイだけではなく、アブノーマルなプレイも交え、めくるめく変態の世界が繰り広げられてたりして……
しばらくすると、三匹のブタさんたちは、思いの丈を表明して気が済んだのだろう、口元から垂れているよだれをぬぐい、固い悪手を交わし、立ち去っていった。




