いつになく早起き
その翌日、いつになく朝早くに目を覚ましたわたしは、宮殿用のきらびやかなドレスに着替え、「よしっ!」と気合いを入れた。その傍らでは、プチドラが金貨のいっぱいに詰まった袋から頭だけ出して、「何事か」というように目をこすっている。
「マスター、どうしたの? 今日は何か特別な日だっけ……」
「宮殿に出向いて裏工作するのよ。唯一神教の金銀財宝を我が手に! でしょ」
「そうだ、そうだったぁ! よーし!!」
プチドラは金貨の詰まった袋からピョンと跳びだして、「イチニーサン」とラジオ体操を始めた。(冷静に考えれば、手にする可能性は高くないだろうが)貴金属や宝石が懸かっているということで、気合いが入っているようだ。
プチドラを抱いて応接室に行ってみると、丁度、アンジェラとアメリアが朝食後のデザートを食べている最中だった。
アメリアは、例によって、騒動しく、
「これはまた、なんというおいしさでしょう! これぞ、唯一神の思し召しです!!」
「でも、アメリアさん、どうして神様が唯一でなければならないのでしょう?」
「唯一です、そうでなければいけません。アンジェラさん、もし、神様が複数あるとなれば、例えば、唯一神が唯二神とか唯三神とか……」
「それはそれでいいと思いますが…… 何か不都合があるのでしょうか?」
すると、アメリアは「えっ」と言葉を詰まらせ、頭に手を当てて「え~っと、え~っと」と考え込んでしまった。唯一神教の教えを広める立場にある人が、突っ込まれて反論できないでどうするのかという言いたいところだけど、それはそれとして……
「おはよう、アンジェラ、アメリア。あなたたち、いつも早いわね」
「あらっ、お姉様! お姉様もいつになく早く…… 今日は特別な日でしたっけ?」
アンジェラは、わたしの顔を見るなり、(プチドラと同じことを言いつつ)「ハテ」と首をかしげた。
アメリアは、わたしに目を向けながら、なおも「え~っと」と考え込んでいる。視線で助けを求めているような感じもするが、神様が唯一でなければならない理由はわたしにも分からないのだから、どうにも仕様がない。
わたしは手早く朝食(各地の特産品をふんだんに挟み込んだ高級サンドイッチと輸入ものの高級紅茶)を取ると、プチドラを抱き、パターソンが大急ぎで用意した馬車に乗った。彼も、わたしがこれほど早く起きてくるとは思っていなかったようだ。
ちなみに、懐には、コーブ事務局次長から渡された怪しげな書類を忍ばせている。ただ、この書類は切り札にはならず、教団が怪しいことを示す補強証拠程度の役割しか果たさないとは思うが、何もないよりマシと思う。
屋敷を出てしばらくすると、馬車は宮殿に到着した。今日は行事など特に予定されていないのだろう、宮殿前は閑散としている。わたしは玄関先で馬車を降り、プチドラを抱いて、ゆっくりと宮殿の長い廊下を進んだ。




