ゼニカネにまつわる話
帝国宰相との話を終え、屋敷に戻って応接室で一服していると、パターソンがニコニコして現れ、
「カトリーナ様、案配はいかがでしたか? 帝国宰相からは、どのような話が??」
「人事の話だったわ。新しい役職は『神祇庁次官』って、言ってたわ」
すると、パターソンは「う~ん」と首をひねり、
「なんだか微妙ですね。官職の『格式』としては、まあ、こんなもんでしょう。ただ、実利というか、役得というか、そういった現実的な『うまみ』は、あまりないと思います」
「構わないわ。『うまみ』の多い官職になると、何かと忙しくなるんでしょ」
「でしょうね。『うまみ』のおこぼれにあずかろうという、欲の皮が突っ張った人たちを相手にしなければなりませんからね。苦労が絶えないと思いますよ」
どこの世界でも陳情やロビー活動はあるのだろう。そんな面倒なことに関わり合いたくはない。
「ところで、ちょっと……」
わたしはパターソンを招き寄せ、(小さい声で話す理由はないけれど)ヒソヒソと、
「実は、何やら妙なことというか、帝国宰相の『特命』を引き受けちゃったのよ。宰相が言うには、『唯一神教について調査してもらいたい。ただし、こっそりと、秘密裏に、誰にも覚られないように』だってさ」
「唯一神教ですか。確かにうさんくさい連中ですから、叩けば埃が出てくるかもしれませんね」
パターソンは、ふむふむとしきりにうなずいている。
「でも、パターソン、『埃が出てくる』って、具体的に、何が出てくるのかしら」
「『具体的に』ですか。それは難しいですね。具体的なところは、実際に調査を進めてみなければ分かりませんが、多分、何かあるのではないでしょうか」
なんともモヤッとした、パターソンにしては珍しい受け答えのように思える。彼も内心では、唯一神教にあまり好い印象を抱いていないということだろうか。
「そうだわ、妙なことといえば、ほかにも……」
わたしはパターソンに、帝国宰相がマーチャント商会会長と話をしてひどく腹を立てている(と思しき)現場を見たことを話した。
「帝国宰相とマーチャント商会会長ですか。他人の内心は分かりませんが、宰相とマーチャント商会の接点として考えられるのは……」
パターソンが推測を交え説明するところによれば、「新皇帝即位の際には、『大盤振る舞い』という帝国の伝統行事が行われるのが例である。『大盤振る舞い』とは、新皇帝の即位を帝都市民全員でお祝いするため、帝国政府が帝都市民に対し、食糧と見世物を提供して楽しんでもらうという行事であるが、そこで、例えば、行事の実行を請け負ったマーチャント商会が、政府の負担能力を超えるような莫大な金額を費用や報酬として請求したのであれば、宰相が怒るのは理屈として分かる」ということ。
「ということは、結局、ゼニカネに関する話なのね」
「そのようですね。それと、もう一つ、ツンドラ侯が帝都の警察長官に内定とのことです」
どうでもいいといえば、どうでもいい話だが、あのツンドラ侯が警察長官って……