早朝の痴話喧嘩
わたしはハッキリしない意識のまま、寝ぼけ眼をこすり、
「アメリア、おはよう……で、いいの? まだ夜中じゃない?」
「いえ、時刻は午前4時40分。朝です。間違いありません」
アメリアはこう言って胸を張った。わたしの理解では、午前8時以降が朝のはずだが……
でも、それはさておき、こんなに早く、しかも、朝食前に報告とは、いささか常軌を逸してはいないか。さらに言えば、昨夜不在にしていたコーブ事務局次長が、その翌日の朝早く(わたしの理解ではまだ夜中)に、教団本部まで戻ってきているのだろうか。
「問題ありません。本来は、昨日のうちに報告しておくべきだったのです。ですから、え~っと、早ければ、それに越したことはないはずです。きっと、間違いありません」
わたしはアメリアに急かされ、プチドラを抱き、半ば連行されるような形でコーブ事務局次長の部屋に向かった。
しばらくして、教団本部の最も奥まった場所にあるコーブ事務局次長の部屋の前にたどり着くと、アメリアは、わたしの顔をじっとのぞき込み、
「では、行きますよ、カトリーナさん、覚悟は……、いえ、用意はいいですか?」
わたしは無言でうなずいた(最初の「覚悟」の意味が気にならないではないが、言い違えただけだろう)。
ところが、アメリアが、コーブ事務局次長の部屋のドアをノックしようとした、まさにその時……
「おい、この、この売女めぇ! また、あの…… そんなにブタが恋しいかーっ!!」
事務局次長の部屋からは、男性ががなり立てる(特大の)声が響いてきた。
アメリアはビクンと体を震わせ、「ひぃっ」と小さい悲鳴を上げた。この男性の声は、キャンベル事務局長に違いない。
「私だって好きでやってるわけじゃないさ。でも、今は仕方がないだろう。唯一神教を快く思っていない人たちも多いんだ。そんな連中から教団を守るためには、ある程度は政府の有力者を利用しないと……」
今度は、コーブ事務局次長の声が廊下に響く。事務局次長は夜中のうちに教団本部に戻っていたようだ。キャンベル事務局長は、そんな事務局次長を待ち構えていたのだろうか。
「くそっ、あんなブタ野郎とは、さっさと手を切っちまえ! 教団を守るなら聖戦士がいる、そうだ、聖戦士だ。そのための聖戦士なんだぞ。分かってるんだろう、おい!!」
これは、いわゆるひとつの痴話喧嘩の類だろうか。これまで得た情報から推論すれば、コーブ事務局次長は一種の枕営業により、政府内でも重きをなす大貴族と昵懇の間柄になっているが、キャンベル事務局長は、多分、自分の女を取られたと思って、ひどく腹を立てているという構図が読み取れる。
「ウェストゲートだかウェストヒップだか知らんが、あんなブタ……」
「やめなさい! 大きな声で人の名前を言うもんじゃないわ!!」
キャンベル事務局長の声に続き、それをかき消すようにコーブ事務局長の声が響いた。その瞬間、わたしは思わず、目が点。事務局次長の言う政府の有力者って、あのブタさんのことだったのね……




