いきなり武装蜂起
「あの、マスター、いきなり武装蜂起って……? 話のスジが見えてこないんだけど……」
「つまり、唯一神教には、理由や理屈はともあれ、とにかく武装蜂起で大騒ぎを起こしてもらうの。そうすれば、当然、帝都の治安組織は、取締りのために教団を攻撃するわ。わたしたちは、その機に乗じて、つまり、どさくさに紛れて、宝物庫から金銀財宝を奪ってしまうのよ。どうかしら、完璧な計画でしょ」
ところが、プチドラは「うーん」と、まるでダメ出しするように首をひねり、
「それは、ちょっと……、どうかなぁ」
と、先刻までとは打って変わって、非常に懐疑的な様子。
「なんとかなるわ。いえ、きっとなんとかする。それに、教団が実際に武装蜂起してくれれば、帝国宰相も喜ぶでしょう。それこそ違法行為の現行犯なんだから」
わたしはそう言いながら、しかし、内心では苦笑していた。あまり数の多くない帝都の駐在武官(親衛隊)で成功裡に宝物庫の金銀財宝を運び出すのは、尋常な手段では不可能だろう。だから、帝都の治安組織と教団の私兵(聖戦士)が教団本部付近で交戦中みたいな、とにかく「わやくちゃ」な状況であればなんとかなるかもしれないという、言わば、非常に低い可能性にかける神頼みのような策。
プチドラは、うまくいくとは思えないのか(気持ちは分かる)、「うーん」と腕を組んだまま、わたしを見上げている。確かに、理知的で教養もありそうなコーブ事務局次長が教団を事実上掌握しているうちは、教団と帝国政府が一戦を交えるような事態は起こらないだろう。しかし、何かの弾みで、見るからにアホあるいはバカ丸出しのキャンベル事務局長が手兵の聖戦士を率いて独自行動を始めるとすれば、可能性は無きにしもあらずだと思う。
なお、帝都の警察長官がツンドラ侯なのは、ここに至っては願ってもない僥倖。これを利用しない手はないだろう。具体的に良案が浮かんだわけではないが、ツンドラ侯の権力は、教団信徒に対する不当又は違法逮捕や拷問等々、キャンベル事務局長の堪忍袋を刺激するため使わせてもらおう。
わたしは、特に意味があるわけではないがプチドラを抱き上げ、
「今日は遅いわ。明日のこともあるし、そろそろ寝ましょう。おやすみ」
と、そのままゴロンとベッドの上に横になった。
遠くでは、犬の吠える声が響いていた。
そして……
わたしは自室の窓から差し込む薄明かりを浴び(夜明けが近いのだろう)、朦朧とした意識の中で……
「カトリーナさん、起きてくださいコーケコッコーーッ! 朝でぇーす!! ガンガンガン!!!」
と、突如、耳元ですさまじい大声とともに、何かを激しく打ち鳴らす金属音が響いた。
わたしは思わずベッドから身を起こし、目をぱちくり。一体、なんなんだ???
「おはようございます、カトリーナさん、さあ、朝食前に、コーブ事務局長のところへ、情報収集の成果の報告に行きましょう」
目の前にいたのは、不可解なほどに元気いっぱいのアメリアだった。




