「開かずの間」の中には
教祖様の部屋を出たわたしとアメリアは、キャンベル事務局長に見つからないよう注意深く自室に戻ると、とりあえずはベッドに横になった。アメリアは間を置かず、スヤスヤスヤ、スヤスヤスヤ……と、寝息を立て始めている。プチドラは何やら得意げに、小さな手でVサイン。妙にアメリアの寝付きが良いのは、プチドラの「眠り」の魔法のせいだろう。
プチドラはわたしを見上げると、またも隻眼をうるうると潤ませ、
「マスター、あの部屋で暮らしたいよぉ!」
と、いきなりわたしの胸に飛び込んできた。
「えっ、一体、どうしたの!? あの部屋で暮らすって、どういうこと???」
「あの部屋で、黄金と貴金属に囲まれて……」
プチドラによれば、教祖様の部屋から壁抜けした先の部屋には、金貨や宝石が満たされた宝箱や金の延べ棒が多数、まるで四方の壁一面を覆うように積み上げられ、部屋の中央部には、金や銀やプラチナ等の貴金属や宝石で装飾された調度品、アクセサリー、儀礼用武具等々が、所狭しと並べられていたという。
確か、プチドラが壁抜けした先の部屋は、位置的には、錠前が3重にかけられた(「開かずの間」のような)謎の部屋のはず。ということは、その部屋は、教団の宝物庫に当たるのだろうか。
謎の部屋が(宝石や貴金属等の財宝で満たされた)宝物庫なら、錠前を3重にかけ、コーブ事務局次長の部屋と廊下を隔てた向かいに配置するのも理にかなっている。事務局次長は、自らの部屋のすぐ近くにその宝物庫と教祖様の部屋を配することで、できる限り自らの監視の目が届くようにしたのだろう。おそらくは、3重にかけられた錠前の鍵も、事務局次長が自ら(もしかしたら、常に肌身離さず)管理しているに違いない。
「マスター……」
プチドラは相変わらず隻眼をうるうると潤ませている。
「そんなに……、あの部屋の中、すごかったの?」
すると、プチドラは、ウンウンと何度もうなずいた。ドラゴンは、本能的に宝石や貴金属に目がない。プチドラが「暮らしたい」というほどの部屋なのだから、多分、ものすごい……、部屋に所蔵された金銀財宝の価値を金貨に換算すれば、何万枚か、何十万枚かという具合に、とにかく、途方もない額に上ることは間違いないだろう。教祖様がその部屋をのぞいたことがあるかどうか知らないけど、「今のコーブ事務局次長は、何よりもお金が大切」と言ったのも、うなずける。教団の運営、特に貴族などの金持ち相手の祈祷(治療行為)は、莫大な利益を伴うようだ。
ただ、そういうことなら……
「プチドラ、本当に、あの部屋で生活したいの?」
「うん……、でも、マスター、何かいい考えあるの?」
「じゃあ、その財宝、宝物庫、『開かずの間』、なんでもいいけど、それをそのまま、わたしたちのものにしちゃいましょう」
すると、プチドラは驚いたのか、「えっ」と口を大きく開けた。




