プチドラも隻眼を潤ませて
教祖様が泣き出したのを見ると、アメリアは力強く教祖様を抱きしめ、
「泣かないで下さい、教祖様。わたしたちにできることなら、どのようなことでも。そうですよね、カトリーナさん!」
わたしは思わず苦笑した。いちいち同意を求められても困るのだが……
しかし、教祖様は首を左右に振り、
「あなたたちに、そのような面倒をおかけするわけには…… それに、多分、今のコーブ事務局次長は、何よりもお金が大切なのです。でも、わたしには、どうして、そう、『お金、お金』と言うのか、分からないのです」
「カトリーナさん、え~っと、どうしましょう。教祖様は悲しんでおられます。こんな場合、え~っと、どうすれば教祖様の力になれるでしょうか」
アメリアは、困ったような顔をしてわたしを見上げた。
「分からないわ。でも、コーブ事務局次長も一時の気の迷いかもしれない。とりあえず、もうしばらく様子を見るところじゃないかしら」
と、わたしは、端から見ても分かりそうな気のない返事。わたしには教祖様のために働く道義的義務はないはずだし、今日はこうして、わたしの貴重な時間を犠牲にして長々と話を聞いたのだから、それで十分だろう。
また、そもそも論として教団運営にお金がかかるのは当然だし、教団もここまで大きくなれば、教団本部の信徒の食事や日用雑貨、また、自衛用の武器等々に要する費用は莫大なものとなるだろう。教団の「経営者」として資金繰りに気を配るのは、むしろ求められるべきことではないか。ただ、コーブ事務局次長の個人的な嗜好として、金銀財宝・宝石・貴金属などに対して人並み外れた執着を示し、それ故に、貴族や大商人などの金持ちに対して法外な(取れる相手から、とことんむしり取るくらいの)治療費することは、あるかもしれないが……
その時、不意にわたしの右肩に重みが加わり、
「マスター、今、戻ったよ……」
と、わたしの耳元に、プチドラの小さな声がした。コーブ事務局長の部屋や錠前が3重にかけられた謎の部屋の探索を終え、戻ってきたのだろう。ただ、なんだか、プチドラの声が少しおかしい(涙声っぽい)。
「マスター、ボク、あの部屋で暮らしたいよぉ……」
プチドラは隻眼をうるうると潤ませている。アメリアのうるうるが伝染したわけではないだろうが、一体、何があったのだろう。非常に気になるが、この場でプチドラの話をきくわけにもいくまい。続きは自室に戻ってからゆっくりきくことにしよう。
わたしはプチドラを抱いて立ち上がると、
「教祖様、遅くなりましたし、今日のところはこれにて失礼いたします。コーブ事務局次長が『金の亡者』みたいなという話、わたしたちでできることがあれば、何なりと申しつけください」
わたしは両手で教祖様の手を取り、力強く握りしめた。アメリアは、何やら期待するような眼差しで、わたしを見上げていた。




