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ザ☆旅行記Ⅹ 神と神々の都  作者: 小宮登志子
第12章 教祖様の暗い過去
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勢力の拡大

 三人は、まずはスラム街の一角に、当面の生活と布教活動の根拠地を手に入れた。これは、現在の教団本部のような立派な建築物ではなく、まさしくスラム街のド真ん中にある小さなあばら家だった。

 唯一神教の活動は、スラム街の貧しい人たちを相手に、その教義を懇切丁寧に説くことから始まった。のみならず、クレアの「唯一神の奇跡の力」を活用することも忘れなかった。すなわち、辻説法などで教えを説いた後、怪我や病気で苦しんでいる貧しい人たちの求めに応じ、その怪我や病気を、クレアの能力によって無料で治療するのだった(クレア曰く、「当時、コーブ事務局長が『無料』とハッキリ述べていた」とのこと)。


「今から思えば、あの頃が一番楽しかったのかな……」

 教祖様は、ポツリとつぶやいた。

 すると、アメリアは例によって、目からうるうると大粒の涙を流し、

「素敵です。お金をいただかずに貧しい人たちのために尽くすなんて! そうですよね、カトリーナさん!!」

 でも(これは、わたしの推測だけど)、本当に、その治療行為は無料だったのだろうか。確かに、治療行為の対価自体は請求しなかったかもしれない。しかし、治療費の代わりに信者になれと言われたら、断れる人はあまりいないだろう。そのように信者にしてしまえば、少額であれ定期的に会費(協力金、上納金など名称は問わないが)を要求したり、現金がなければ教団のための無償労働(奉仕活動)を要求したりできるだろう。長期的に見れば、治療行為の代償は十分に回収できるのではないか。


 ともあれ、スラム街で活動を続けているうちに、唯一神教の信者は増えていった。また、「唯一神の奇跡の力で怪我や病気を治療することができる少女がいる」という話は、スラム街のみならず平凡な一般市民の住宅地に、時には、お金持ちの住む高級住宅地にまで伝わるようになった。スラム街のド真ん中の小さなあばら家には、いつしか、現金を持っている治療希望者が訪れるようになり、その数は日増しに増えていった。

 その時になって、レベッカは「待っていました」とばかりに、

「唯一神の奇跡の力は、あらゆる人に向けられたものです。しかし、その力を受け取ることができるかどうかという点については、その人の信仰心次第です。信仰心が篤い人は、当然、私たちの活動への理解も深く、私たちの活動に献身的に協力してくれるはずです」

 と、言い回しは抽象的であるが、あからさまに対価としての「お布施」あるいは「ご寄付」を要求するようになった。なお、こういったお布施又はご寄付は、後に行われる炊き出しなどの貧困層向け社会福祉活動(帝都の伝統的な宗教界は見向きもしなかった)の原資にもなった。

 このような活動を続けていくうちに、唯一神教の教団組織としての規模も拡大し、クレアには教祖様、レベッカには事務局次長、エドウィンには事務局長との肩書も付して呼ばれるようになった。また、帝都の何カ所かに支部が設けられるとともに、教団本部も現在の場所に移転し、4階建ての堅牢な石造りの建物が造られることとなった。

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