心からの同情
クレアは悲しい思いで立ち上がった。里親のところに戻りたくはないが、早く戻らなければ、「帰るのが遅い」と虐待の口実にされてしまうだろう。クレアはエドウィン・キャンベル及びレベッカ・コーブの両人に向かって小さくお辞儀し、二人にクルリと背を向けた。
その時……
「待って、あなたは何者なの? 私たちを助けた?? 目的は何???」
レベッカがガシッと、クレアの手首をつかんだ。
「えっ!? 目的ですか?? あ、あの、それは…… あの~、あの~……」
クレアとっては、目の前に血を流した人が倒れていたので助けただけで、取り立てて言うほどの「目的」はない。強いて挙げるとすれば、普遍的な人類愛とか隣人愛など。ただ、考えているうちに、クレアは、何がなんだかわけが分からなくなって、
「あ、あの~、あの~…… うっ、ううっ!」
と、声を上げて泣き出してしまった。
レベッカは一瞬ニヤリとして(何やら考えが浮かんだのだろうか)、口元に微笑を浮かべつつクレアを優しく抱きしめ、
「詰問してるわけじゃないのよ。何かわけありかしら。よかったら、話してみない?」
クレアは、一瞬、ドキッとした。このように温かい言葉をかけてもらった覚えは、今までなかったから。
「あっ、あの~、あの~……」
慣れないシチュエーションのせいか、言葉が思うように出てこない。しかし、レベッカは、そんなクレアを咎めるでもなく、責めるでもなく、ただ、ふんわりと両腕で抱きしめていた。クレアもまた、レベッカの体にしっかりとしがみついた。
しばらくすると、レベッカは、周囲にチラチラと目を遣り、
「こんなところで立ち話もなんだかね…… あなた、これからどうする? 家に帰る? それとも、私たちの隠れ家、いえ、アジト……でもなくて、私たちの『おうち』に来る?」
クレアはビックリしてレベッカを見上げた。突然降って湧いた話だけど、この人たちと一緒に行けば、ともかくも里親の手から逃れることができる。クレアは心に何やら固い決意のようなものを秘め、首を縦に振った。
こうして、クレア、レベッカ・コーブ、エドウィン・キャンベルの三人は、以後、行動を共にすることになった。
「おお~! え~っと、なんというか!! なんて、いい話なのでしょう!!!」
アメリアは、もう一度、教祖様に抱きつき、頬をスリスリとすり寄せた。ちなみに、当時、教祖様が自らの不幸な身の上についてコーブ事務局次長に包み隠さず話したところ、事務局次長は目からポロポロ涙を流し、心から同情してくれたという。
でも、コーブ事務局次長は本当に「心から同情」していたのだろうか。常に懐疑主義のわたしとしては、その時の事務局次長の行動には、同情しているように見せかけてクレアの信頼を得、自らの野心・野望の道具に利用しようという魂胆が隠れているように思えてならないのだが……




