調べれば、きっと何か
帝国宰相は、さらにもう一度、周囲を注意深く見回すと、おもむろに口を開いた。
「実は、そなたに特命をと思ってな。神祇庁次官に任命するのは、その特命との関係があるからじゃ」
「あの~、特命というのは、一体、どのようなことなのでしょうか。実は、わたし、このところ超多忙なのです」
「いやいや、今回の特命は、そなたでなければできぬ、いわゆる『余人をもって替え難い』というやつでな」
帝国宰相は語尾を強めた。断ることは「絶対に」できないっぽい。
わたしは「ふぅ~」とため息をつき、
「では、その、わたしでなければできないという高度なお仕事の内容とは?」
「そなたも目にしているであろう。最近、この帝都で『唯一神教』なる怪しげな宗教団体が跋扈しておる」
唯一神教といえば、確か、この前に公園で教祖様を熱烈に支持していた、危なそうな連中のことだ。
「見たことはありますが、その唯一神教が何か?」
「唯一神教を徹底的に調査し、やつらの悪事、つまり、違法行為の証拠をつかんでほしいのじゃ。ただし、事を荒立ててはならぬ。秘密裏に、やつらにそれと覚られぬよう、こっそりと調べてほしい」
「調査ですか。彼らが何か悪いことでもしているのですか?」
「それは分からぬ。分からぬからこそ調査なのじゃが、調べればきっと何か出てくるはずじゃ。ただし、調査だけでよいぞ。くれぐれも、騒動は起こさないように頼む。証拠が揃えば、取り締まるのは警察の仕事じゃからな」
なんと言うべきか、「調べれば、きっと何か出てくる」って…… その行き当たりばったりは措くとしても、「秘密裏」とか「覚られぬよう」とか「こっそり」とか、そこまで密行性を強調する必要はないと思う。それに、違法行為の証拠をつかむのも、そもそも警察の仕事ではないか。それをどうして、わたしが調べなければならないのだろう。警察にも知られたくないような、ドス黒いドロドロとしたものが関係しているのだろうか。
「分かりました。できるだけひっそりと調査を進めます。ところで、報酬は?」
「おお、そうか、やってくれるか! さすが、わが娘じゃ、よろしく頼むぞ」
帝国宰相は、わたしの手を握り、「はっはっはっ」と大笑いしながら、宮殿に戻っていった。「報酬は?」の部分は聞こえなかったのだろうか。でも、帝国宰相に限って、そこまで耄碌しているとは考えがたい。ということは、報酬を払う気がないから聞こえないフリ?
帝国宰相の姿が見えなくなると、プチドラは、わたしの耳元でささやく。
「マスター、本当に引き受けてよかったのかな。この話、うさんくさすぎるよ」
「どうせ断れないでしょ。ただ、『うさんくさすぎる』なら、まだ救いはあるわ。唯一神教の違法行為の証拠を探しているうちに、帝国宰相や他の政府高官の、他人に知られては困るような秘密情報が手に入るかもしれないわ」
プチドラは、よく分からなそうに首をかしげた。もし、幸便にもそんな情報が手に入ったとしたら、報酬代わりに有効活用(ゆすり・たかり等々)することにしよう。




