何もしていない割に
ここは、帝都の一等地、わたしの屋敷。
「ふあぁぁ~~~」
昼前に目を覚ましたわたしは、体を伸ばし、大あくび。ゴールデン・フロッグの一件がどうにか片付いて以来、わたしは帝都に留まり、特にこれといってすることもなく、屋敷の中でゴロゴロしていた。でも、何もしていない割に、睡眠時間はいくらあっても足りないのが、不思議なところ。
プチドラも、金貨が一杯に詰まった袋に体をうずめ、口からよだれを垂らしながら、気持ちよさそうに眠っている。金銀財宝に囲まれて酒池肉林のハッピーライフをエンジョイしている夢でも見ているのだろう。
わたしは適当に身支度を整え、「よいしょ」とプチドラを袋から引っ張り出した。すると、プチドラは、にわかにパッチリと目を開け、
「……あっ、あれ!? あの、マスター、ボクの経営する全面プラチナ壁のダンジョンはどうなったの?」
「はあ? プチドラ、あなた、何を言ってるの?? もしかして、夢の話???」
「あらら、もったいないことを…… もうすぐ入場者10万人を突破しそうな勢いだったのに……」
なんだかよく分からないけど、幸せな夢の話には違いないだろう。
「お姉様、おはようございます。でも、もうお昼ですよ」
しばらくすると、アンジェラがわたしの朝昼兼用食をもって部屋を訪れた。
ゴールデン・フロッグの一件の後、アンジェラは、帝都のわたしの屋敷に滞在を続けている。これは何も、アンジェラをウェルシーのミーの町まで送り届けるのが面倒だからというわけではなく、帝国の首都である帝都での生活を少しでも経験しておくのがよかろうという教育的配慮から。
「おはよう、アンジェラ。帝都での生活にも、少しは慣れた?」
「はい、ここはミーの町と違って、本当にいろんなものがあるんですね」
アンジェラは、帝都での生活を満喫している様子。今までグレートエドワーズバーグやミーの町みたいな辺境の町しか見たことがなかったのだから、それもむべなるかな。
なお、アンジェラは先帝の御落胤であり、特に新皇帝が即位した今、仮にこのことが公になれば、有史以来の大混乱にもなりかねない。しかし、アンジェラが御落胤であるという事実は、存命中の人物ではわたしとプチドラとアンジェラ以外は誰も知らず、帝国宰相もその他関係者も、御落胤は既に死亡したと思い込んでいる。バレる気遣いは要らないだろう。
「ごちそうさま」
と、朝昼兼用食を食べ終えると、ここ最近のパターンになってしまっているが、アンジェラが目をキラキラと輝かせ、わたしを見つめていた。
アンジェラの言いたいことは分かっている。わたし的には、あまり気が進まないところではあるが、
「分かったわ。アンジェラは、本当に学問好きなのね」
「はい、お姉様」
アンジェラはうれしそうに、ニッコリとほほえんだ。