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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人類の救世主になった大魔王様


 ?????年前




「ぐ……おのれえ! 貴様……!この大魔王である妾を裏切る気か!?」

「大魔王ゾーン……貴女はもう時代遅れなのです……」


 一瞬の油断……

 腹心であるゾルデの不意を突く一撃。

 それを真面に食らってしまった大魔王ゾーンは身動きが取れなくなっていた。


「どうですか? これは私が新しく開発された魔道兵器の威力ですよ!念入りに準備を行えば、大魔王ゾーン様の大魔術よりも凄まじい効果を発揮しているでしょう!?」


 4つの球体によって生み出された闇の空間はじわじわと大魔王を呑みこんで行く。

 裏切り者のゾルデは、ケラケラと笑いながら大魔王が苦しむ様子を眺めていた。

 魔道兵器の開発は大魔王の命令で中止されていた。

 これ以上の魔道兵器の開発は不要との理由。

 だが……ゾルデはひっそりと隠れながら、魔道技術の開発を続けていた。

 全ては自らが王となる為に……


「ククク……確かに今回は妾の負けのようじゃな……だが一つだけ忠告してやろう……魔道兵器の開発はもう止めるのじゃ。素人でも強力な力を発揮する兵器は危険すぎる」

「ご心配には及びません。魔道兵器は完全にコントロールされています。貴女のような時代遅れの世界とは違うのですよ。大魔王様」

「そうか、忠告はしたぞい……まあ精々、がんばることじゃのう」


 今にも闇の中に呑みこまれようとしている大魔王はニヤリと笑う。

 舐められた態度をされてしまったゾルデは苛立ちを隠せない様子で怒鳴り散らす。


「いつも貴女はそうやって、私を見下すのですね!この偉大なる発明を馬鹿にした時と同じように!」

「見下すのは当然じゃろう? 妾は大魔王じゃ。全ての民は妾にひれ伏すのが道理である。まあ、今度は貴様がその席に座るようじゃがな」

「もういい、さっさと消え失せろ!」


 闇の中に吸い込まれてしまった大魔王はついに封印されてしまった。

 それは封印の鍵である物質が存在しないので、外部からの解除は不可能。

 内部からも永遠に広がる闇から出口を探し出すのは、無限に広がる針の穴を通すようなモノだ。

 そんなただ一人だけ、闇の住民となってしまった大魔王は音も出す事が出来ない永遠の闇に閉じ込めながらも考え込んでいた。


「(ここが一度でも入ってしまえば抜け出せない闇の世界か……厄介な事になったのぅ)」






 かつて太古の昔に……全ての世界を支配していた大魔王が君臨していた。

 大魔王ゾーンは圧倒的な力と魔力を持ち、ありとあらゆる種族の頂点となった魔族。

 だが、魔族の栄冠はもはや存在しない。





「つ、ついに妾は脱出に成功したのじゃー!」


 長かった……永遠の時ともいえるような時間。

 心を無にしなければ、とてもじゃないが精神的に死んでしまっておったじゃろうな。

 妾は永遠ともいえる時間を利用して、闇の力を溜め続けていた。

 その成果もあって、最大の一撃を込めた魔術で、ついに闇の世界から穴をこじ開ける事に成功したのじゃ!


 だが、失った代償も大きい。

 妾の美しい肉体は見る影もなく、幼い少女の姿へと退化してしまった。

 大量に宿してしまった闇の力を抑える為にはこの姿が一番の最適である。

 故に、大人の姿へ戻る事が出来ぬ。

 いや、出来ないのじゃ。


 ――しかし、ここは何処じゃろう?

 辺りは草木も生えていない荒れ果てた大地じゃ。

 とてもじゃないが、魔族や人族が住んでいそうもないのう……



「まあ、使い魔ならここは何処なのかを知ることが出来るじゃろう」


 妾は使い魔を召喚する為に魔法陣を展開させる。

 使い魔の数は数えきれないほどに契約させていた。

 まずは、知略として頼りになるミミルを呼ぼうかのう。


「現れるのじゃ! ミミル!」


 ……


 辺りは妾の叫びを発しただけで

 静寂な空気となっていた。


 あれ? なぜミミルが召喚されないのじゃ?

 ならば他の使い魔を召喚するまでじゃ!





「セスト! ギーム! ソマーニス! ヒドラ! キンゲール!」



 あれから数百体もの契約している使い魔の名を叫んだのに

 全く召喚される気配がない……

 いったいどうなっておるのじゃ!



「ぜえ……ぜえ……もう残り数十体ぐらいしかいないのじゃ……」


 最後の希望を元に、妾は使い魔の名を大きく叫ぶ


「……グラム! ソーニャ! ブックス!」


 ブックスと叫んだ瞬間、ついに魔法陣が輝き始める

 ……やっと妾の叫びが届いてくれたのじゃ。


「それがしを呼んだのはそちであるな?」

「……おぬし……誰じゃ?」


 ブックスの姿に首を傾げてしまう。

 杖を持ちながらロープを被った爺さん。

 こんなヨボヨボの爺なんて知らない。

 妾の知るブックスはもっとカッコいいイケメンじゃったぞい!


「なんと! 使い魔であるそれがしを忘れてしまう……ってよく見れば大魔王様ではないですか! それならば、それがしの顔を見間違えるのも無理はないですなあ」

「なんじゃと!? まさかおぬしがブックスだと言うのか!?」

「正真正銘のブックスですぞ! まあ、1万3000年も経ててしまえば、いくら長寿である私でも、爺になってしまうわい」


 今……とんでもない事を言わなかったか?

 恐る恐る、妾はブックスに問いかける。


「のう……一万年は、いくらなんでも冗談が過ぎるぞい」

「冗談ではありませんぞ。大魔王様の使い魔の殆どが寿命で亡くなってしまったのが証拠ではありませぬか」


 そうじゃった……

 妾の使い魔が全く呼べなかった原因は明らかに寿命である。

 その他の原因では、契約違反による解除であるが、一度も使い魔とわしはその契約を破ってはいない。

 じゃが、気になる点があったので、ブックスに尋ねてみる事にした。


「ブックスよ……なぜ不死者であるマスターリッチが呼べんのじゃ?」

「マスターリッチ様は今世に未練が無くなり、成仏いたしました。」

「そ、そうか。成仏したのならば、致し方ないのじゃ。ならば吸血鬼であるビールスはなぜ死亡したのじゃ?」

「異世界から現れた吸血鬼ハンターに狩られてしまいました」

「流石に天敵には勝てなかったか……」

「左様でございます」


 せめて、マスターリッチぐらいは生きててほしかった。

 あやつはいろいろと便利じゃったからな。


「ふむ……使い魔の殆どが失ってしまったのは手痛いが仕方あるまい。ブックス!魔族の国の魔都は何処にあるのか教えるのじゃ!」

「魔都はありませぬ」

「なんじゃ? 帝都や王都に変わってしまっておるのか?」

「魔族は6500年前ほどに滅亡してしまいました」

「…………嘘じゃろう?」


 思わず顔を歪めて、唖然としてしまう。

 ブックスはその名のとおり、この世界で記された歴史――魔術――などを記録させる能力が備わっている。

 故に妾の知識袋とし活用していた。

 使い魔が嘘をつく事はありえぬが、嘘だと信じたいのじゃ。



「嘘ではありませぬ」

「わ、妾の国がめつ……滅亡……」


 膝をガクりと落し、妾は大変なショックを受ける。

 強靭で無敵の身体能力を誇っていた魔族……そのような国を滅ぼす存在がいたとはのう……


「では、ブックス。魔族の国を滅ぼした宿敵は誰じゃ?」


 大方、あの裏切った奴が開発した魔道兵器に関係しておるのに違いないじゃろう。

 あれは世界の理とはかけ離れた力が備わっていた。

 故に、妾は開発を無理やり中止にしたのじゃ。

 そんな思考をしている妾に、ブックスは恐る恐ると告げる。


「魔族の国を滅ぼしたのは人族です」

「あの貧弱な人族が魔族を滅ぼす? せめて獣人やエルフならまだ理解できるのじゃが……」


 人族は知能のある生物の中で一番繁殖力はあるが、身体能力はとても貧弱である。

 そのような下等生物が、魔族に勝つことなどあり得ぬ。


「人族は勇者兵器と呼ばれる新しく開発した魔道兵器を使って、魔族の国を滅ぼしたようですなぁ?」

「ようですなぁ……って、やけに自信なさげじゃのぅ」

「私の記憶はゾーン様の国と連結しておりましたので、国が滅ぼされてしまった後からの記録は殆ど残されておりません」

「なんじゃ、使えぬ奴じゃな」

「申し訳けありませぬ」


 つまりは、勇者兵器とか云う名の魔道兵器によって、妾の国は滅ぼされたと言う事じゃ。

 しかも、後半の歴史は殆ど知らないらしい。

 妾も魔族の国を滅ぼした人族は許さぬが、流石にこれだけの年月が経過していれば、人族の最盛期もとっくに過ぎ去ってそうじゃな。

 まあ、もしも人族に喧嘩を売られたのならば買ってやるがのぅ


「まあ良い。今は一刻も早く、知能のある種族を発見せねばならぬ。ブックス!この地域に生命反応を探すのじゃ!」

「大魔王様ならば簡単に探し出せる筈だと思いますが……」

「ノリの悪い奴じゃのぅ……その場のノリで言って見ただけじゃ。これだから老人は嫌いなのじゃー」

「大魔王様も十分にお婆さんではありませぬか」

「……妾はピチピチの美少女じゃ」

「いや、一万年も越える年月はもはやお婆さんではないかと」


 徐々に不機嫌になっているのを感じる。

 こ、こやつ……妾に針の刺さる言葉をチクチクと言いおって!

 妾は闇の世界に解け込んだだけなのじゃから、ノーカンに決まっておる!

 あの封印さえなければ、妾はピチピチの2716歳なのじゃ!


「ええい!そんな事を言っている暇があるのなら、さっさと生命反応を探すのじゃー!」

「仕方ありませんな……」


 渋々と爺は探知を開始させる。

 妾には及ばないものの、ブックスにはかなりの探知能力が備わっている。

 こういう仕事はちゃんと部下にしてやらんといかんのじゃ。


 数十秒もの間が経過した後、ついにブックスは生命反応を感知させた。


「むむむ……近くに人族らしき生命反応が2人もありますぞ! どうやら謎の生物に襲われている様子でございます」

「ふむ……妾の国を滅ぼした人族か……まあこの世界の情報を聞き出すのならば、誰でも構わぬ。それよりも謎の生物とはなんじゃ?魔物ではないのか?」

「魔物では御座らん。魔物の生体とは、かけ離れた存在ですな……新種の生物であるかと」

「まあ、長年もの月日が経ってしまえば、魔物以外の生物が現れるのも道理じゃな。とりあえずは、人族と接触するついでに、その新種の生物とやらも確認しておこうかのぅ」


 新種の生物も気になる。

 魔物は、魔族には及ばないものの、田畑を荒らし、我ら魔族にも襲い掛かる厄介な害獣じゃ。

 特に食用にもならぬ魔物は最悪の害獣である。

 そんな魔物とは別種の存在。

 今はそっちのほうが気になるのじゃ。


「それは私も向かわないと行けないのですか?」

「当然じゃろう!そなたは妾に残された最後の使い魔であるぞ!妾だけでは寂しいではないか!」

「おお……そこまで必要とされたとは!この爺、感服しましたぞ!」

「いや、そこまで感動しなくても良いのじゃ……」


 涙を流すほどに嬉しいらしい。

 まあ良い。信用できる使い魔は妾の部下以上に大切な存在である。

 あの裏切り者の奴と違って、使い魔は絶対に裏切らないからのぅ。

 使い魔は少人数であれば永遠のこの世界にとどまる事が可能なのじゃ。


「では、人族と接触するのならば、人族に変身したほうが良いかと存じますぞ」

「そうじゃのう……人族にとって魔族は未だに敵対関係になっている可能性が高い。妾も不本意ではあるが、少しの間は変身したほうが良さそうじゃな」


 そう言って、妾は変化の呪文を唱える。

 妾に生えていた2本の角と翼は消えて、見た目が黒髪の美少女へと変わる。

 その様子はブックスが鏡をとり出したお蔭で隅々まで姿を確認する事が出来た。


「ふむ……人族の姿でも、妾は美人じゃのぅ」

「当然であります。大魔王様はどの姿でもお美しいで御座いましょう」

「そう褒めている暇があるのなら、そなたもその怪しい衣装を外すのじゃ。絶対に人族は警戒してしまうぞい!」

「左様でございますか……」

納得がいかないのか、渋々と別の衣装に変身するブックス。

ふむ、その姿なら問題なさそうじゃな。


「さて、新種の生物とやらは、妾の準備運動ぐらいにはなってほしいのぅ」


 そして、妾とブックスはその場から一瞬に消え失せて、人族が襲われている現場へと向かった。




「ち、ちくしょう!なんだって、こんな時に中級天使に襲われるんだ!」


 全身が白い姿に覆われ、4つの翼を生やした光輝く天使は、逃げ出している二人をあざ笑うかのように追いかけていた。

 その姿は子どものように狩りを楽しむ、狩人だ。


「クレス……もう私を置いて言ってもいいよ。もう足が限界なの……」

「馬鹿な事を言うな!二人で一緒に生きてシェルター街へ逃げ延びるって約束しただろう!」


 少年少女のシェルター街は、天使の襲撃によって滅ぼされてしまう。

 そして、奇跡的にも生き延びた二人は、今、僅かな食糧と魔道銃の武器を装備して、放浪の旅へと出発した。


 だが、少年少女の命運は今、尽きかけようとしている。

 相手は中級天使。

 魔道銃を装備していた少年では、下級天使を仕留めるのが限界である。


 少年は覚悟を決めて足を止める。

 唯一生き残った少女を守る為に覚悟を決めた。


「なんでクレスも足を止めるのよ!」

「僕たちは死ぬ時も生きる時も、シェルター街に避難するまでは一緒だって約束しただろ? だから僕は君を守る!」


 少年の決死の覚悟。

 この魔道銃では中級天使を多少は傷つけるのが限界である。

 それでも唯一の希望をすがって、魔力を溜めた魔道銃を中級天使に向かって発射される。


「避けられた!」


 だが、必死に生き延びようとしている少年少女をあざ笑うかのように、中級天使は紙一重で回避した。

 天使は思わる反撃を食らっても、平然とその顔はニヤニヤと不気味に笑っていた。

 ゆっくりと近づいた天使は、そのまま光る球体を手から出現させ、そのまま二人に向けて天使の光球が発射された。


「くそ……ここまでなのか!?」


 もはや抗う術がなかった。

 球切れの魔道銃に無理やり魔力を流し込んでしまった少年の魔力は既に空っぽである。

 少女の体力も限界。

 もはや命運は尽きかけていた。


 だが、その放たれた光球は少年と少女に襲い掛かる事がなかった。

 そう……突如として現れた少女の乱入によって、少女の手から伸びた闇の影に呑みこまれてしまったのだ。


「ふむ、不思議な魔術を使う生物じゃのぅ……まあ、妾の敵ではなさそうじゃ」

「もちろんで御座います。ゾーン様に敵う相手など存在しませんわい」


 少年には理解出来なかった。

 あの光球は半径数十メートルを更地に変えるほどの威力を持つ

 中級天使の必殺技である。

 それもいともたやすく受け止めて消滅させてしまった。

 彼女は何者だろうか?

 だが、命を助けてくれたのは確かである。

 見たこともない程に豪華な黒の衣装を身に着けている少女と執事の姿は、彼らからしてみれば、救世主であった。


「あの……貴女様は一体?」

「只の通りすがりの大魔王じゃ」

「ゾーン様。余所見をしている場合ではありませぬぞ! どやら相手は何かを仕掛けてくる気のようです」

「ほほう……まだ戦意は衰えては、いないようじゃのぅ……」


 相手は自分の生命を脅かすほどに危険な存在だと、瞬時に理解した天使は、最大級の光球を作り出していた。

 その大きさは、上級天使にも匹敵するほどの威力を持つ光球である。

 例え、謎の力で防がれたとしても、この光球は触れただけで、瞬時に爆発してしまう設定に変えた。

 もはや、防ぐ事も不可能……だが。


「ふむ……魔力とは違うのぅ……エネルギー源はなんじゃろうか? ブックス!おぬしなら、理解できるか?」

「私でも、このようなエネルギーは知りませぬ……」


 気が付けば光球の横側には、正体不明の少女と翼を生やした老人姿の執事が出現していた。

 天使の動揺はする。

 執事の男性はともかく、少女は翼を生やしておらず、魔道兵器を使って、空に浮いている訳でもない。だのに少女は空に浮いていた。

 さらには、光球に触れているのにもかかわらずに、暴発してすらいない。

 それどころか、光球は急速に少女の元へと吸収されてしまう。


「むう……あまりおいしくないのう……やはり闇のほうが妾の好みじゃな」


 天使は、即座に己よりも凌駕した存在だと理解する。

 敵わぬ敵対者ならば、即座に撤退して仲間に知らせねばならない。

 だが、この少女は逃走すら見逃してもらえない。


「まあ、食べなければ、こやつの正体が分からぬし仕方ないのじゃ」


 急いで逃走をしていた天使は気が付けば四方は暗闇の空へと変わっていた。

 一体何が起きたのかが理解できない。

 だが、大魔王が使った技は単純である。

 大魔王の内部に広がる闇の世界を一時的に出現させて、そのまま相手を捕食する。

 ただそれだけである。

 天使は何が起きたのかも理解出来ずに闇に呑みこまれ、消失してしまった。

 まさに一瞬の出来事である。

 そんな食事を終えた少女は、少々、不機嫌になっていた。


「……中途半端な知的生物のお蔭で、あまり詳しくは情報を入手出来なかったのう」

「所詮は魔物の出来そこないと言った所でしょうな。まあ、心配せずとも、救いだした人族に聞き出せば、いいだけの話ではありませぬか」

「それもそうじゃな!」


 うんうんと納得した少女と執事はそのまま着地して、少年少女の元へと駆け寄ってきた。

 その一部始終を全て観ていた少年と少女は茫然と佇む事しか出来なかった。

 あの圧倒的な強さ……それは古代の歴史で英雄となった伝説の勇者に近い強さであった。

 故に人族の少女は問いただす。


「あの、貴女様はまさか、伝説の勇者様なのですか!?」

「伝説の勇者? 残念ながらハズレじゃのぅ……」

「でも、僕は人の力を超えた存在は伝説の勇者しか存在しないって、先生に教わりました!」


 古代の歴史……

 長年の間に支配し続けていた魔の国を滅ぼした伝説の勇者。

 伝説の勇者は、魔を滅ぼしたと同時に消え去ってしまったと歴史に伝えられていた。

 まるで突如と現れて、人族を救いだした救世主。

 今はその太古の昔よりも人類は追い込まれている。

 故に少年と少女は、彼女こそが、世界の危機に救い出す為に駆けつけた勇者なのだと確信していた。

 否定してしまったのも、きっと勇者の存在を知られたくないのだろうと、勝手に解釈されてしまう。


「はあ……お主らがそう思っておるのならば、それでも良い。それよりも、今、この世界がどうなっているのかが、さっぱりなのじゃ。少年よ、あの翼を生えた生物は何者なのじゃ?」


 少年は、ますます彼女が勇者ではないかと確信してしまう。

 きっと魔を滅ぼした衝撃でタイプスリップを引き起こしてしまったのだろうと、勝手に思い込んでしまっていた。


「僕らの間では、天使と呼ばれています。突如にこの世界に現れ、僕達の世界を壊滅的に追いやった化け物……とても危険な存在です」

「私達は天使の脅威から守る為に、地下深くのシェルターに隠れながら生活していたの……」

「なんと!? 知的生物はそこまで追い込まれていたのか!」

「それはまた、随分と危機的な状況でありますな」


 ゾーンと名乗る少女はその事実に驚愕していた。

 魔族を滅ぼすほどの魔道兵器を開発した人族ですら壊滅的に追いやる存在。

 もしかすると、殆どの種族は滅ぼされてしまったのかも知れない。


「ですからお願いします! 勇者様! どうか僕達の世界を救ってください!」

「私からもお願いします!」


 二人はそう言って頭を下げる。

 絶望しかけていた二人にとってはまさに希望の光だ。

 だが、大魔王ゾーンはご立腹である。


「せめて大魔王様と言ってほしいのじゃ……」


 不機嫌になった大魔王は、この人族にさらなる情報を得るために食べようとしていた。

 だが……辺りは魔族どころか人族の気配がまるで存在していない。

 少年と少女ではさらに詳しい情報は、もう望めそうにないと感じていた。

 ならば、この二人は貴重な手駒として育てるのも悪くないだろう。






 その後……無事にシェルター街を発見し、侵入した新種の天使をブックスと共にバッタバッタと倒している内に、大魔王ゾーンは気が付けば救世主である勇者だと祀り上げられてしまうのであった。

 時折、「妾は大魔王なのじゃー!」と叫ぶ事があるが、大魔王の存在がすっかりと風化してしまった今では、軽い冗談と受け取られている始末である。




 勇者と勘違いされてもゾーンは挫けない……大魔王の戦いはこれからだ!






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― 新着の感想 ―
[良い点] 大魔王様がカワイイです。 エターナルロリババアでも(ぁ 後ブックスさんも良いキャラしてます。 [一言] 続編希望です。
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