異変
舞台は高校に戻る。
高校では中学で学ぶことを深めつつ、組手もとい模擬戦闘を行うことで実戦の感覚を意識させる。組手は、専用のデバイスに命力を流し込むことで仮想空間に自分の仮想体を構成することで可能となる。触れている間は好きなタイミングで好きな量の命力を流すことができるため、ほとんど実戦に近い形で戦うことができる。
ある日、凛と組手をしていたときのことである。
真白は自分の扱う肉体強化の術式に違和感を覚えた。コントロールはうまくできている。しかし、もっと発展できるような、そんな違和感を覚えた。
「…真白、調子でも悪い?なんか様子が変だよ?」
「…いや、大丈夫、続けよう」
(まだ、先がある。このイメージは、なんだ。明確にしろ、自分の支配下に置け)
心の中で真白は自身に語りかける。
「大炎弾!!」
凛の術式がとんでくる。
(これを…打ち消す!!)
目的を明確にしたそのとき、真白の体表を透明な膜が覆った。凛の放った炎弾は真白に衝突し、炸裂したが、真白には傷一つない。
「真白、いま、なにしたの…?」
凛が驚き戸惑いながら問う。
「わからない、けど肉体強化の術式が体外に漏れてるみたいだ。」
「命力が体外に漏れているのに、属性がついてないの?」
「そうみたいだな。…もう少し組手に付き合ってくれないか?この現象がなんなのか、はっきりさせたい。」
「…分かった。全力でいくよ。」
「どうやら、体外と体内の区別が曖昧になってるみたいだ。俺の周りの空間を自己と認識することで生じるようだ。」
組手の後、自己分析の結果真白はそう結論を出した。
「それって、オリジナルの術式が完成したってことになるよね。学校で教えられた術式には当てはまらないし。」
「だな。もう少し自分で調整してみるよ。」
そう言ってこの日の組手は終了した。
(先生は自分の術式に対して『鍵』を設定しとけって言ってたな。)
鍵とは、術式の発現を簡略化するものだ。術式自体に単語を当ててもいいし、陣を用意することでもいいが、こり高度な術式を扱う際には、その両者を同時に利用しても時間がかかることはある。
(あれから調整したのが『装甲』、『武装』、『破壊』の3つ…。こんだけあれば校内戦でもそこそこまではいけるだろう。)
真白はここまで考えをまとめ、校内戦への出場を申請しに職員室まで行っていた。今まで頑なに出場を拒んできた真白が自ら出場を申し込んだことに担当の先生がおおいに驚いたことは言うまでもない。
校内戦まではあと2ヶ月。それまでに調整や応用をさせようと考えながら真白は教室へ戻った。
放課後の教室には真白以外に数名の女子が残っていた。
「…だから〜、っと、来たよ、ユキ。」
会話を打ち切って、伊福部雪乃を促す。
雪乃は緊張した様子で真白に話しかける。