第一章二節 分裂
「現状では警察の救助は期待できそうにない。」
霧人は話し出した。
現在の生き残り人数は18人。
男子が10、女子が8人だ。
「恐らくだが、他にもいるだろうな。」
「ああ、俺は見たんだが不審者って奴らも同じような状態だったと思う。」
田中が話す。
「待て、不審者も似たような感じだったのか?」
「そうだ、体育館の中から見たのだが生徒に噛み付いてた。そして、時間が立つと噛まれた者は立ち上がり、周りを襲い始めた。」
―――まるで、バイオハザードみたいだな…
「それが本当なら向こう側では18人が立ち上がり、徘徊しているだろうな…」
慎太郎が神妙な顔つきで言った。
「待って!、私たちはここで救助を待っていれば関係ないじゃない。中に何体、精神異常者がいたって…」
メガネでツインテールの女子生徒、中村 舞が言った。
「救助か、だが警察も呼べないから救助はない。それに街中で起っているんだ。きっと人手不足だろう。」
霧人はそう言って続ける。
「この学校から出て、どこかで保護してもらおうと思う。」
「同意、ここで待っても食料もない。来るかもわからない救助を待つのは御免だ。動けるうちに動きたい。」
坊主頭の野球部、井上 正一が言った。
「俺も賛成だ。残りたい奴は残れ。無理強いはしない。」
慎太郎が言う。
「俺は残るぞ!あんなのに襲われるなんて嫌だ!」
ある男子の一団と女子二人が言った。
合計7人の互いに仲のよい連中だ。
てか可愛い女子に勝手に集まっているだけだと思う。
この女子二人にとって男子はいいように守らせるための道具に過ぎないかもしれない。
「よし、ついてくるのは11人だな?」
「そこの7人以外は行くんだな?」
田中が聞くと行く連中は頷いた。
ぶっちゃけ、ここを出ようとした理由は明日に備える必要があるからであった。
明日の天気予報だと大荒れで吹雪のような状態になるだろうとのことだ。
どこかで暖を取って、凌ぐ必要がある。
そして、情報も集めたい暴動の規模を知るためにも。
「委員長、二手に分けて、東階段、西階段から下りよう。襲い掛かってくるものを分散する。」
「なるほど、わかった。」
すると慎太郎は行く連中を分け始めた。
出来る限り、仲のいい連中をくっ付けている。
連携を取りやすくするためのようだ。
「霧人、お前は向こうだ。」
慎太郎が指図する。曰く、お前に任せたほうがよさそうだからな。こっちはまかせろとのことだ。
こっちからすると大して仲良くもねーのに何がわかんだよ!って感じだ。
霧人はメンバーを見渡した。
4人のクラスメートと田中であった。
「よろしくね、常盤君」
「ああ、よろしくな」
佐藤 留美だ。
クラスでも上位の頭の良さだ。
ロングヘアで頭がいい。クラスでは目立たない地味な娘だ。
しかし、可愛いと思うよ。
席が隣のときに多少会話を交わしたりした。
その時にある程度は仲良くはなっといた。
「霧人、頼むぞ」
「ああ、任せろ」
田中と拳をガツンとぶつける。
残り3人は遠巻きに霧人を見ていた。
―――あんま話したことないからな……
残り三人は陸上部の髪の長さが肩ほどのショートヘア?の黒田 美琴
身長170cmのサッカー部所属のソフトカールショートヘアの斉藤 翼
茶道部所属、身長150超位のポニーテールの高木 あやめだ。
―――斉藤君、女子二人に囲まれていい思いしてるじゃねーか。よし、要削除っと…無論そんなつもりはないがな
全員、一通りのメンバーを確認したところで出発することになった。
外に出た後は部活棟の野球部の部室に集合だ。いつも鍵が開いたままらしい。
…教師はそれでいいのかよ
「前方の一体は俺がやる。後は適当にあしらってくれ」
S&W社製の護身用の万年筆を胸ポケットから取り出す。
渾身の力で叩き込めばいけるだろう。
「委員長、田中も頼むぞ。三階に下りるまでは一本道だからな。」
そう言うと霧人は扉を開けた。
錯乱状態の生徒はどっかにいなくなっていた。
11人が中に入ると屋上の扉は鍵を掛けられて戻ることはできなくなった。
「いないな…」
霧人は角から廊下の様子を覗うが何もいない。
「委員長、家庭科室に寄ろう。幸い、ここに奴らはいない」
「わかった」
11人は足音を立てないように家庭科室へと入り込んだ。
「どうして、家庭科室に来たの?」
舞が霧人に訊いた。
「ああ、こいつだよ」
棚から包丁の束をごっそり取り出した。
「各自、これを持って、最低限の自衛はしてくれ」
霧人は刃の調子を見ながら言った。
リーチは短いから絶対の武器ではあるが使いづらいかもしれない。
難点は刃をしまうケースが見つからなかったことだ。
掃除用具入れの中のモップの柄を使って包丁で槍を作った。
あいにく二本しか作れなかった。
コレを霧人、慎太郎が持つ。
槍術や薙刀できるやつがいればよかったのだがな。
―――見よう見まねだがようつべで見たことはあるな。
軽く振ってみる。
長いリーチだから狭いところでは向かないな。
それにどの包丁も刃が欠けている。
もっとも斬りつけるというよりは刺し殺す方が多いし、斬る方で使うこともないだろうからまぁよしとしよう。
「よし、行くぞ」
「ここに立て篭もるのは?」
「こんなプラスチックみたいな壁が破られないと思うか?」
慎太郎が自分のグループの相沢 真由の提案を切り捨てた。
「とにかく、急ぐぞ。奴らが来るかもしれん」
「ああ、外の部室棟の野球部のところでな…」
慎太郎が言う。
二つのグループは別れた。
互いの無事を祈りながら。
「こっちだ」
霧人は5人を壁に寄らせて移動する。
階段に近づくと足音が聞えた。
一団を止める。
手で止まるように伝えると自分はこっそり階段のフロアを見た。
三体の狂人と化した生徒がいた。
霧人は戻った。
「三体だ…俺と田中先輩と斉藤で戦う。各自一体ずつだ。そして、隙を突いてお前らが包丁で止めを刺せ。」
残った三人の女子にトドメを任せたが一人だけ文句を言った。
「俺は嫌だぞ!」
声を低くしているが大きな声で斉藤が言った。
「じゃ、女子に囮の役をやらせるというのか?」
「そうだよ、不公平じゃないか」
―――斉藤君、君はクズヤローだったのか
「君は獲物を狙うときが最も隙があるという言葉をしらんのか?」
「俺は危険な目には遭いたくないんだよ」
「別に女子と交代させてやってもいいがお前に出来るのか?」
斉藤は言葉に詰まった様子であった。
「まぁまて、狂人が目と鼻の先にいるんだろ?揉めるな。お前も文句を言うんじゃない」
田中が仲裁に入った。
斉藤は頑として囮役をやらないようだ。
「しゃーない、先制攻撃で一体潰せればいいんだ。さっき襲われて気がついたが力も差ほど常人とは変わりない」
「まかせたよ」
3人の女子に言った。
震えながらも力強く頷いてくれた。
その頷きに霧人は満足しながら階段の所まできた。
狂人は2体に減っていた。どっかに移動したようだ。
槍を構える。
そのまま、走って突っこむ。その勢いのまま手前の奴の頭を突き刺そうとしたが外れる。
「くそっ!外した」
歯噛みしながら罵り、槍の先を突っこんだ状態のまま下の方に向ける。
一歩下がって距離調整をして先を首に突き上げる。
さらに手前の狂人は近づいてこようとしていたのか自分から刺されることになった。
―――いける!
そう思ったとき、狂人が背後から襲い掛かる。
そのまま、首を絞められる。
狂人の口の中の腐臭みたいな臭いが霧人の鼻を突いた。
隣では田中も同じように正面から取っ組み合っていた。
「霧人君!」
佐藤さんが包丁を頭に突き刺した。
狂人の腕が緩んだので霧人は肘うちをして離れる。
しかし、狂人は力尽きることなく頭に包丁を刺したまま近づいてくる。
恐らく、頭蓋骨のせいで深くは突き刺さらなかったせいだろう。
狂人は佐藤さんに向って襲いかかろうとしたがそうはさせなかった。
「残念だが相手は俺だ!」
霧人は肩を掴んで包丁を握った手で殴った。
更に左フックで殴りかかる。
トドメに刺さった包丁を抜いて、両手に構えた包丁でこめかみに突き刺す。
田中の方も二人の女子が加勢して片付いたようであった。
斉藤は隠れていた。
―――なさけないやつめ
霧人は怒りを感じながらも下に下りることにした。
結構、音を立ててしまったので来るやも知れない。
「行くぞ!!!!」
6人の部室棟へと向う冒険は始まった。
ご意見御感想その他があれば宜しく御願いします。
文句でもOKOK
大山武って誰だったのでしょうかね…正一君で塗りつぶします