将来の夢
真菜は夢見る少女。
幼稚園で同じひまわり組の賢ちゃんと将来結婚するのが一番の夢だ。
でも、賢ちゃんはモテモテの男の子。
真菜には三人のライバルがいる。
家がお金持ちで、毎日賢ちゃんにお菓子をプレゼントしている美樹ちゃん。
手先が器用で、あやとりで賢ちゃんをとりこにしている優菜ちゃん。
幼稚園児とは思えないほど積極的で、賢ちゃんに隙があるとキスをするおませな菜奈ちゃん。
(でも、けんちゃんはあたしとけっこんする!)
真菜はそう信じて疑わない。
それでも、ライバル三人の存在は真菜にとって脅威だった。
ある日、真菜はあるものに気づいた。
「将を射んと欲すればまず馬を射よ」
玄関にかけられたカレンダーに書かれている妙な言葉。
真菜は読めないながらも興味津々で、会社から帰って来た賢ちゃんの次に好きなパパに尋ねた。
「パパ、これ、なんてかいてあるの?」
パパも真菜の事がママの次に好き(とママには言っているらしいが本当は真菜が一番)なので、
「これはね、手に入れたいものがある時にはその周りから手をつけるのがいいという意味だよ」
と真菜を抱き上げて解説した。しかし、真菜は首を傾げて、
「まな、わかんなーい」
パパは言葉が難しかったかなと反省し、
「パパはね、ママと結婚するために、ママのパパと仲良くしたんだよ。そんな感じさ」
と具体例を挙げて説明し直した。すると真菜は目を輝かせて、
「わかった! ありがとう、パパ!」
とパパのほっぺにキスをした。
「おお!」
パパは感激して涙を流した。
真菜はパパの説明をどう理解したのか、次の日曜日に賢ちゃんの家に行った。
「おはようございます」
真菜は散歩に行こうとしていた賢ちゃんパパに声をかけた。
「おはよう、真菜ちゃん。賢は出かけてていないよ」
賢ちゃんパパは言った。しかし、真菜はニコッとして、
「きょうはけんちゃんパパにあいにきたんです。いっしょにあそんでください」
と言うと、小首を傾げた。これはおませな菜奈ちゃんの真似だ。
「ああ、いいよ。何して遊ぼうか?」
本当は女の子が欲しかった賢ちゃんパパは真菜の可愛さにメロメロである。
「およめさんごっこ」
真菜はニコッとして言った。
「え?」
ちょっとだけビクッとする賢ちゃんパパ。
「ふつかものですが、よろしくおねがいします」
真菜はどこで覚えたのか、そんな事を言ってお辞儀をした。
その二十年後、真菜はめでたく賢ちゃんと結婚できたらしい。