彼の出生
私は 龍吾に
「二度と来るな」
と言われて 急に悲しくなり、涙がこぼれた。
「なんか、姉ちゃん、泣くな、泣くな。」
拓さんは 半分笑って、半分困った感じで 私の肩に手を 置いた。
ビクっとした 私に、
「何もせんっちゃ。」
といい、
「何か あいつに 渡すもんがあったんじゃないんか?」
と 優しい声で言った。
「あの・・これ・・」
私の差し出した、龍吾のノートを受け取った、拓さんは パラパラめくりながら、
「すごいのお、龍吾は。さすがにタネが違うだけある。・・で、これを渡したらええんか、姉ちゃん。」
「はい。お願いします。」
そういって、私は 帰ろうとした。
「姉ちゃん、どこに帰るんか知らんけど、道はわかるんか?」
「・・・わかりません。」
拓さんは また笑った。
そして 2階の窓に向かって 叫んだ。
「誰か、この姉ちゃん、送ってやってくれ。道がわからんらしいで。」
しばらくして、さっきの龍吾の友達が 顔を出した。
「龍吾が 行かんっていうけえ、オレが行くわあ。店番あるし。」
「おう、頼むで、栄次。」
そして、私は初めて会う、龍吾の友達、大野栄次くんに 港の近くまで 送ってもらうことに なった。
彼は 島の男の子みたいに話し易い子だった。
龍吾とは 中学からの同級生で 学校が違う今も、毎日遊んでいると言った。
「オレは 日本人じゃし、最初、龍吾に合ったばかりの頃は 在日に対してやっぱ、偏見があったよ。・・あいつとは 一度取っ組み合いの喧嘩をしてから、以来親友だ。取っ付きにくいやつじゃけど、いいやつじゃけえ。」
「うん。」
私は 今日の英語の時間のことを大野くんに話した。
「あいつらしいな。」
そう言って 笑った。
「龍吾の 母ちゃんは 拓にいの 親父さんと 日本に来たけど、親父さんが、経営してた店の女と蒸発して 以来一人で 拓にいを育てたんだ。で、何年か後に 店の客とデキて、龍吾が生まれた。父親は日本人だ。たぶん あんたも知っとる人。これ以上は 言われんけど。」
大野くんは 充分おしゃべりだ。
「オレんち あそこのレコード屋なんじゃ。学校帰りにでも 寄ってってよ。龍吾も よう来るよ。」