裏通り
巡査さんが案内してくれた通りは、天気のいい日でも 薄暗い、ジメジメした、舗装も充分にされていないような ところだった。
一歩踏み入れるのに 勇気がいったが 私は誰かに彼の家の 場所を聞こうと 道を進んだ。
飲み屋街というのだろうか? 店の古びた 換気扇から 出る食べものの臭いや下水のような 臭いが 鼻につく。
店と店の間の細い路地に、派手なシャツをきて、頭をリーゼントにした男の人たちと 短いスカートをはいて 派手な化粧をした女の人が 座り込んでタバコを吸っていた。
私は 関わらないように、彼らを見ないようにして、足早に通りすぎようとしたが、 彼らは 見慣れない制服姿の 私を見逃しては くれなかった。
「よお、姉ちゃん、あんた どっからきたん? 」
その中の一人が 私に話し掛けた。
無視して 通り過ぎようとしたが、手を掴まれた。
「あんた ここが どこか知っとるんか? どこの学校?」
「いえ、 あの・・」
昼間から お酒臭い。
怖くて立ち去りたかった。
「ねえ、誰かを訪ねてきたんじゃないん?」
派手な女の人が そう言った。
私は 一か八か訪ねてみた。
「あの、金井龍吾くんのお宅を知りませんか?」
「はあ?金井?・・おい、拓、龍吾を 訪ねて来たんだってよ。」
私の手を掴んだ 男の人が、奥に座って タバコを吹かしている 男の人に向かって言った。
『拓』と呼ばれる男の人は、 タバコを足で踏み消して、 こっちに近づいてきた。
首に金色のネックレスをして、 指に何個も指輪をした いかにもその筋の人のようで ビクビクした。
『拓』というひとは、私を、さっきの巡査さんと同じように 下から上へと舐めるように 見た。
「龍吾に 何の用かね?姉ちゃん」
「あのっ、今日助けてもらったので お礼をと・・」
「龍吾に 助けていただいたんだってよ」
彼らは 馬鹿にしたように笑う。
私は ほんとに 怖くなって、帰ろうと 後ずさりした。
「ちょっと待てよ、姉ちゃん。龍吾に会って、礼を言って帰れや。まあついておいで」
何も知らない私は、その『拓』という人の後について行くことにした。