偏見
「ザイニチ?」
「知らないの?笙子ちゃん? うちの市内には 割と多いのよ。」
「そう、でも見た目も私たちと変わらないし、なんで 関わらないほうがいいの?」
「何だか わかんないけど、親がそういうんじゃもん」
「ふ〜ん」
私は 納得がいかなかった。
改めて また 彼を遠くから見た。
新入生なのに お古の 肘や 裾の 擦り切れた 制服を 着ている。
かばんも ボロボロだ。
でも 誰よりも 堂々として このクラスのなかで 一番 目立って見えると思うのは私だけだろうか?
彼の一重で 切れ長の瞳、色黒で すーっと通った鼻筋
私には一目惚れに 近い感情が 芽生えた。
どこか 陰のある まだ名前さえ 知らないその人に近づきたく なった。
学校が 終わり、私は勉強している 兄の部屋へ行き、 こっそり、「ザイニチ」ってなに?と 聞いてみた。
兄は
「市内には そう呼ばれる人が たくさんいるが、その人たちは 日本人が作り出した 犠牲のようなものだ。 オレらとは 何も違わないのに 昔の日本人が 差別するように 仕向けたんだ。 理不尽な話だ。」
そう言って 日韓併合から続く 歴史を 兄は 長々と 語った。
「ひどい話ね。」
「彼らは 差別と偏見から正統な道を 歩くのをやめてしまったり 貧しいなか なんとか生活をしている。 もう戦争が 終わって 20年以上経つのに、そんな偏見が残っているんだ。 納得できない話しだ。お前も そんな考えは 持たない方がいい。」
「お兄ちゃんなら きっとそういうと 思った。ありがとう。」
昭和40年代、この狭い地域には 根強く 差別が残っていた。
それは 学校の先生も 同じだった。
兄は 熱く語る割には 自分の勉強のことで 精一杯で ほかのことには 無関心に なってしまった気がする。 昔の兄とは 変わってしまった。
あの学校がそうさせるのか 私も いずれ そうなってしまうのか 寂しい気がする。