四人の時間
大野くんは私たちを呼んだ責任からか、一生懸命場を盛り上げようとするいい人だった。
「龍吾も ビートルズばっかり うちで聞いてるんだ。・・・じゃあ 二人に質問、ビートルズが有名になる前に ベースをやってた、五人目のメンバーって 誰でしょう?」
「スチュアート・サトクリフ!」
私と 龍吾は ほぼ同時に答えた。
そして 顔を見合わせた。
「すげえな 二人とも」
大野くんが さらに盛り上げようとしてくれているので、 私は 龍吾に 話し掛けた。
「ねえ、金井くん、スチュアートは 早く死んでしまうんでしょう。」
「ああ、たしか 21歳で、脳出血かなんかで 死んだんだ。」
「そう、そんなに若くに・・・」
「お前、『BABY IN BLACK』って曲、知ってるか?」
「うん。結構好きよ」
「あの曲はな、スチュアートが死んで 落ち込んだ婚約者のアストリッドがさ、黒い喪服のような服ばかり着ているのをみて 彼女のために 作った曲なんだ。」
「え〜明るい曲だと 思ってた。」
「訳してみるといいよ。オレは ビートルズを自分で 訳してみて ジャケットに載ってる 日本語訳に納得いかないことがあるよ。」
私は 彼の目を見て 彼の話を聞いた。
彼の低く ゆっくりと話す声が とても 素敵で ずっと聞いていたい 気持ちになった。
この会話を期に、私たちは少しずつ 打ち解け、話をするようになった。
謎めいている彼は 何を考え、将来 何になりたいと思っているのか?
私には 解らないことだらけだった。
大野くんと百合子も、大野くんの弾くギターで 当時流行っていた グループサウンズを歌ったりして、仲睦まじい様子だった。
でも ギターの音で 龍吾は自分の語る 蘊蓄が 聞こえなくなるので、
「お前 うるさいんじゃ」
と 漫画の本を 大野くんに向かって 投げたりした。
この日以来、私たち四人は、 たまに、大野くんの部屋で 集まるようになった。
その時の龍吾は 話好きで、たまに ひょうきんな面もあり、一緒にいることが苦にならなかったが、学校での 彼は 相変わらず無口で 無愛想だった。
私たちは 学校ではほとんど話をしなかった。