ほんとの彼
「栄次、お前の知り合いか?」
大野くんのお父さんが、意外だという 顔をして言った。
「高校生になると 色気づきやがって。」
「うるせー そんなんじゃないよ。親父。」
「まあ、あんたら せっかくきたんじゃけえ、レコード見ていきんさい。・・・あ、栄次、龍吾が来て、2階におるぞ」
「おう。」
大野くんは 私たちを見て、おいで、と合図をして、2階を指さした。
彼のお父さんは ジロッと大野くんをみて、
「お前 うちは ボロ屋じゃけえ、何しよっても すぐわかるぞ。」
「うるさいな。親父は。何もせんよ。」
百合子は 嬉しそうに、
「おじゃまします。」
と 笑顔で 彼の後をついていく。
私は 龍吾がいることに、すごく身構えてしまって、上がるのを 迷った。
百合子が
「あんたも おいで」
と私の手を引っ張り、無理矢理2階へと 上がらせた。
「お、おじゃまします。」
大野くんが
「まあ、汚い部屋じゃけど」
と 通してくれた部屋のど真ん中に、制服のままの龍吾が 寝転んで、漫画を読んでいた。
龍吾は 私たちをみて、驚いた 顔をして 体を起こした。
「なんで お前が ここにおるんじゃ」
龍吾が 何日かぶりに 私に話し掛けた。
「まあええじゃん。何もお構いできんけど、座って」
大野くんは そういって部屋にあぐらをかいて座った。
百合子は 大野くんの部屋を見渡して、
「やっぱり、レコード屋さんだけあって 大野くんの部屋も レコードがいっぱいね。」
「え〜と、名前なんだっけ。」
「私? 百合子。田村百合子です。まだ言ってなかったっけ。」
「で、彼女は?」
大野くんは 龍吾を見た。龍吾は 知らない顔 で下を向いた。
「私、松永笙子っていいます。」
「そう、笙子ちゃんや百合子ちゃんは 何の曲が好き?」
「私は ミーハーだから、歌謡曲なら なんでも。」
「笙子ちゃんは?」
「私は ビートルズが好き」
「龍吾、お前とおんなじじゃん。」
「うるせー、栄次。」
彼は 私たちの話を聞いているのか いないのか、漫画から 目を離そうとしない。