新しい出会い
港の近くまで来て、
向こうから 島での幼なじみの 田村百合子が 歩いて来るのが 見えた。
百合子は 市内の女子高に通っている。
私とは 昔から 気が合う、裏表のない 明るい子だ。
船で 出会うと 女子高で「島出身は 田舎者扱いされて嫌になる」とよくぼやいていた。
百合子は 私達のほうに 遠慮がちに 近づいてきた。
「あれ?笙子、もう彼氏できたの? お邪魔だったらごめんね。」
大野くんと私は 慌てて 距離を 開けた。
「違う違う。今日初めて会ったばかりなんだよ。百合子。」
「じゃ、オレこれで。店番あるし。」
「ありがとう。大野くん。ほんと 助かりました。」
「いやいや、また、店に寄ってや。」
私は 百合子に 龍吾のこと、 今日あったこと、全部話した。
そして、百合子は 大野くんを 一目見て 気にいったらしく、紹介してくれという。
龍吾の家でみた あの真っ赤な口紅の女の子が 気になったが、大野くんに会うため、 後日、彼のレコード屋を 覗いてみようということに なった。
私は 久しぶりに 友達と笑いあえて 嬉しかった。クラスメイトに こんな子がいたらいいのに。
翌日、龍吾に教室で会うことが 不安になった。
きっと 彼も私には 心を開いてはくれない。
寂しい気がした。
朝、教室に入ると 龍吾は先に 来ていた。
そして、いつものように、何か難しい本を読んでいる。
やっぱり、私とは 目を合わせてはくれない。
ぎこちない感じで 数日が過ぎた。
ある日の放課後、百合子にせがまれ、約束通り、待ち合わせをして、二人で 大野くんのうちのレコード屋に 向かった。
港の近くのその店は、市街にある店と違い、あまり流行っているようではなかった。
彼のお父さんらしきひとが、
「いらっしゃい」
と 声をかけた。
百合子と私は 二人でひそひそと 話しながら レコードを見るともなく、店にいた。
怪しい客に お父さんが チラチラこちらを見る。
「ただいま〜」
そこへ 学ラン姿の 大野くんが 帰ってきた。
彼は すぐ私たちに気がついた。
「よお、ほんとに来たんじゃ」
百合子と私は顔を見合わせ笑った。