⑨ウザ眼鏡だった人との、ウザ眼鏡とはもう言えない再会
庭園とそれに隣接して建てられた、広いオープンテラスのあるカフェが会場の、卒業パーティー。その最中には、警備の面から学舎は手前の一部を除き、立ち入り禁止となり封鎖される。
ウェイン令息が探すのを諦めた理由のひとつも、封鎖前の警備の巡回かららしい。
各教室を施錠確認をする為、もし学舎内のどこかに引き込まれたなら、警備が発見する筈だろうと。
「連れ出された可能性が高いのかしら……?」
「だとしても、馬車の停留場までは少し距離が。 以前ご忠告した通り、私は彼等が怪しいと。 あのふたりは授業をサボる際の人目につかない場所や、人気のないルートに詳しかった」
ウェイン令息は、相変わらず三下のふたりを疑っている様子で『どこかにザカライア様を拘束し、プラウス嬢に恥をかかせるのが目的では』と言う。
ホレスの関与指示も疑っているようだ。
「ふたりは小物です。 そうでなかったら、侯爵令息に手は出せないのではないでしょうか」
「確かにそうね……」
ウェイン令息曰く、だからこそ誰かに言うことができなかったそう。
なにしろホレスが関わっているなら、お家騒動。少なくとも周囲はそう見る。
ましてやそれで卒業パーティーを台無しにするなど、今後に差し障る醜聞……秘密裏に処理するのが望ましく、こちらも軽々に動けない。
杜撰なようで、案外よく考えられている。
(そういえば……)
ホレスの成績は良くなかったものの、決して悪くもなかった。
それ以外の言動が目に余るわ鼻につくわで甚だアレだった上、当然のように勉強しているところなど見たことがなかったけれど。
逆に勉強していなくてあの成績なら、地頭はいいのかもしれない。
(でもそれだと交替している意味が不明だわ。 仮に自作自演の罠だとして、自分を人質にザカライア様を脅して──とか無理矢理なこじつけならばできるけれど)
「プラウス嬢、大丈夫ですか?」
「いえ、ええ……なら寮かしら」
「それも考えましたが、誰かに見られるリスクはより高いかと」
ウェイン令息の話からわかったことは、『彼はホレスの交替どころか、厳しい監視も知らない』ということ。もっとも、彼の言うことが嘘でなければ、の話だが。
(それに監視の目を盗み、彼等が接触することは難しかった筈……)
もう学園はすぐそこ。
「───ウェイン様、私はとりあえず学園敷地内を探してみます。 ご報告くださり感謝しますわ、私のことはどうぞお気になさらず」
私は馭者に、裏手からひっそり学園に入るよう指示する。
「おひとりで探すつもりですか? あまりに危険だ、私も手伝います」
「大丈夫ですわ。 でも、でしたら──」
私はニコリと微笑み、彼にひとつ頼み事をする。
どう動くか、既に方向は決まっている。
最早、迷いはない。
「──で、なんでお前まで捕まってるんだよ!?」
「あらヤダわ『お前』だなんて」
幸か不幸か(※本音がチラ見え)、ホレスはこの通り元気だった。
そして彼の様子と状況から、嘘は吐いていない模様。
「言っておくけど、最初から貴方を心配・信用してここまで来たわけじゃなくてよ?」
ぶっちゃけると、ウェイン令息もそう。
彼の話は『真実かどうか』という点に於いて、途中からもうどうでも良かった。
可能性を考えたらキリがなく、私では判断しかねる──という結論に至っていたので。
残念ながら私は、そこまで頭が切れるワケではない。
だが幸いそれを自認している上、別の自信もある。
だから『そんなことよりサッサとホレスを見付ける』が最善策である、と早々に腹を括り、そう行動すると決めた。
私は、心配している風のウェイン令息に『裏手に不審な馬車の行き来がなかったか』と『男子寮に病人などを装って人が運ばれてきていないか』の確認をお願いし首尾よく彼を撒くと、魔道具の通信スイッチを押した。
ホレスの居場所は容易に判明した。
しかし、その途中で捕まり今に至る。
まあ捕まったって言っても、突如現れた三下ふたりに『大人しくしないとザカライア様を殺す』と脅されて着いて行ったのだけど。
「勿論、捕まったのはわざとに決まってるでしょう? 怯えながらも屈辱的に従ったフリをしたけれど、実際は『ラッキー探す手間が省けたわ!』よ」
私の言葉に困惑を隠さないホレスに、妙な動きはもうない。
まだ信用しているワケでもないが、ウェイン令息が彼を『ザカライア様』と判断した理由は、一応だけど説明がついた。
ホレスは今、眼鏡をかけていないのだ。
ぞんざいになったのを差し引いても、私の知ってる『ウザ眼鏡』の時のホレスとは口調も少し違う。
おそらくこっちが素。なら、ザカライア様の目が曇っていたワケでもないようだ。
「だがどうやってここを出るつもりだ? こんな場所、知らなければ見つけるのは難しいというのに……」
「でしょう? ならやっぱり『ラッキー』は正しいじゃないの」
そう答えたが、ホレスの言い分もわかる。
(……まさか、学園内にこんなところがあるだなんて)
私達は今、地下牢に入れられていた。




