⑦プルプル嬢はプルプル訴える
プルプル嬢は悲痛な感じでプルプルしながら、私に訴え続ける。
「エスコートなしだなんて、惨めです……! もう彼は貴女の婚約者じゃないんでしょう!!」
「そうだけど……そんなの私に言われても困るわ」
そう答えた通り、こちらにしてみれば『何故私に?』でしかない。
それこそ自分で『彼は貴女の婚約者じゃない』と言っているというのに、なにをイキナリ、という。
件のパーティーに呼ばれていた人は多く、同情的な視線を向けられたものの、それが私にか彼女にかは不明だが……いずれにせよ居心地の良いものではない。
私は彼女とそれ以上話す気はなく、さっさと家に帰った。
家で私を待っていたのは、領地にいる父からの手紙。
そこには『侯爵様から、ホレスを卒業パーティーに男爵令嬢のエスコート役として参加させても平気か、と相談された』という内容が書かれていた。
(成程……プルプル嬢の行動はこの為の布石ってところかしら?)
ホレスは大人しく罰を受けており、男爵令嬢も問題行動を起こしていない。
それに彼はどのみち留年が決定している。エスコート役として参加したところで、大きい顔もできないだろう。
だがこの先を考えるなら意味はある。
男爵家に婿入りしたところで、向こうは領地も持たない商家。今までの教育はあまり役に立たず、人間関係だけが命綱になる。
もし更生しているのであれば、親としては今までの縁をなんとか繋ぎ、私と和解しザカライア様とも不仲ではないことを示す為に、『卒業パーティーには出してやりたい』……と思うのも仕方ないところ。
その一方、侯爵様は『勿論、キャスリーン嬢の気持ちが一番だ』とも仰っているそうで、『もし了承してくれても、ふたりには当日厳しい監視をつける』とのこと。
勿論、私にしてみればプルプル嬢の言動は却って印象が悪かったけれど、それはそれとして。
衆人環視の中あそこまで言われてしまっては、寛容さを見せるべきだろう。
元より彼等になにができるとも思ってはいないので、許可してやってもいい。
(それにザカライア様のお披露目にいい機会だわ。 兄想いな彼にはちょっと酷かもしれないけれど、上下関係をハッキリ周知させることも必要だし)
とても真面目で優秀なザカライア様だが、スペアの立場を受け入れ、子爵家で過ごしていた彼には自信が足りない。
前に出ようとするタイプでないのは、いくつかの魔道具が商品化されているのに、開発者の名が伏せられていることからも窺えるところ。
嫁いだ後サポートをする気はあるし、控え目なところも素敵なので『変わって欲しい』とまでは思わないけれど……私が彼自身に『貴方は魅力的だ』ということを、もっとわかって欲しかった。
それでも少し懸念部分を考えた末、『監視はしっかりと頼む』と念押した上で、ホレスの参加を許可する返事を書いた。
──しかし、卒業パーティーの日。
私はこの判断を後悔することになる。
「じゃあアンジェラ、また後でね」
「ええ。 貴女のドレス姿、楽しみにしているわ!」
「ふふ、私もよ」
卒業式は午前中に終わり、昼過ぎから行われる卒業パーティーの用意をしに、タウンハウスへと戻る。
既に王都にいる筈のザカライア様だが、帰った時にはまだ家へ来ていなかった。
(昼食と重なるくらいの時間帯だから、遠慮なさっているのかしら?)
最初こそそう思ったものの、私の用意が終わってもまだ来る気配がない。
客人としていらっしゃる際には、常に作法に則りきっちり5分後に来ることから、いつも早目に用意していると思われるだけに、流石におかしい。
(そうだわ、ブローチ……!)
制服から外し、置いていたブローチを取りに机に向かう。
パーティーでは常に一緒にいるつもりだったけれど、一応持って行くべきかザカライア様に尋ねるつもりでいたのだ。
(範囲はどれくらいかしら……届いて……!)
そう祈りながら手に取ると、私が操作するより先に声が聞こえてきた。
『キャシー……キャシー!!』
「──えっ?!」
『キャシー! 僕の声は届いているか?!』
「届いているわ! でもなんで貴方が?!」
ザカライア様ソックリの声。
だが魔道具から聞こえてくる、私を『キャシー』と愛称で呼ぶそれは、間違いなくホレスのものだった。




