⑥男爵令息と男爵令嬢
悩みつつも、日々は恙無く過ぎていく。
三下にはいずれも警戒しているが、目立つ動きはない。
ただ、謝罪もなかった馬鹿ふたりは、最近また一緒にいるのを見掛けるようになった。
それがなんとなく鼻につくのは、ウェイン令息の話による先入観からなのか、それともそれを踏まえた情報として不穏なモノを感じているからなのか。
私が彼等へ嫌悪感を抱き『下衆野郎』と認識していているだけに、そのあたりの判断はつきかねる。
ウェイン令息だけはその輪に戻ることなく、あれからは私に接触することもなく大人しくしている。ごくたまに目が合うと、申し訳なさそうに会釈してくるくらいで。
正直、気まずい。
一切なにもしてこないで礼節を弁えられると、裏がないような気がしてしまうのは単純だろうか。
「──ねえ、アンジェラ。 ウェイン令息ってどんな方なのかしら?」
「ウェイン令息? そうねぇ……」
私は人付き合いに長けた情報通の友人アンジェラに、彼の為人を含めた諸々について、聞いてみることにした。
「彼がウェイン男爵家の庶子なのは知ってるかしら?」
「ええ。 有名な話だし」
『素敵な方だけど、そこがね~』というのが女子達一般の評価である為、あまり関わりのない他家の情報に疎い私の耳にも、流石に届いている。
「元々は特に認知もされないまま、平民としてお母様とふたりで暮らしていたらしいの。 庶子として引き取られたのは、そのお母様が亡くなってからだそうよ。 けれど、やはりあまり家族との折り合いは良くないのか、籍を移しただけで一人暮らしをなさっているとか」
予想外に、結構な事情持ちだ。
ちょっと詮索するのが嫌になる。
(『あまり他人からこういうの聞きたくないな』と怯んでしまうあたりがダメだわ~、きっと私って、甘やかされて育ってるのね。 もう少ししっかりしなきゃ)
「キャシー?」
「あ、ええと……寮ではないのね」
「元のお住いにそのまま、という感じみたい。 勝手な想像なのだけど、今更の認知でしょう? 折り合いが悪いのに籍を移すことにしたのは、王立学園に通う為じゃないかしら。 平民特待生は枠が狭いし、制約も厳しいもの」
「勉強がしたかったのかしら……その割には遊んでいたみたいだけれど」
「ああ彼、ホレス様の取り巻きだったものね。 侯爵家の家人になりたかったのでは? 」
市井で働くよりも高収入を得られそうなコネクションを掴む方が、文官を狙うより簡単だと思ったのでは──とアンジェラは言う。
「そこそこ優秀なだけに、残念ね。 つく人を間違えたというか……」
「ふふ。 当事者を目の前に、歯に衣着せないわね~」
「着せた方が良かったかしら?」
「いいえ、アンジェラのそういうところが好きよ。 それに、とても参考になったわ」
侯爵子息で自尊心の高いホレス。
彼の真の姿がザカライア様の言うように気が小さかったのだとしたら尚更、平民上がりの彼がいきなり仲良くなるには少し敷居が高い相手ではある。低位貴族の取り巻きふたりとまず仲良くなった、と考えるのが妥当だろう。
なにかのきっかけがなかったとは言えないが、もしホレスと直に仲良くなったのなら、三下ふたりとの関係をやんわり諌め、信頼を得る方がいい気がする。
(それより先に三下ふたりと仲良くなった結果、やはり彼はふたりに従うしかなかっただけなのでは?)
私の予想が正しい上で、ウェイン令息が本当に贖罪の気持ちがあるのなら。
許し庇護する代わりに、他ふたりが彼とホレスにしてきたことを詳らかにし、今後手を出せないくらいには叩きのめしたいところ。
ホレスと私を心配するザカライア様の憂いはスッキリ解決、元々できるのにふたりに足を引っ張られていたウェイン令息も悪縁が切れ、めでたしめでたしだ。
(でもなぁ~……)
『お前は甘い』という父の言葉や、ザカライア様からの警鐘を考えると、迂闊な真似はしかねる。
あの夜の彼の様子や立ち位置を思い出そうとしてみるも、薄暗かった上に『三下トリオ』として認識していただけに誰が誰やらで。なんの参考にもならず。
結局実行には移せないまま、時だけが過ぎていった。
そしていよいよ卒業間近となった、ある日のこと。
「あ、あの……プラウス様!」
「? あら、貴女は」
私を呼び止めたのは、プルプル男爵令嬢。
相変わらずプルプルしている。
ザカライア様が彼女に疑心を抱いていただけに突撃される予想をしていた私だが、あれからも彼女はずっと大人しく、こちらに近付いてくる様子すら見せなかった。
やはりホレスも大人しく罰を受け続けており、監視の下でたまにプルプル嬢からの差し入れが続けられていることから、『案外上手くいっているのね』などと安堵していたのだが──
(今更なにかしら?)
「どうか、どうか……卒業パーティー、ホレス様にエスコートして貰うことをお許し頂けませんか……!」
「ええ?」
なんと、私にそんなことを訴えてきたのだ。
プルプルしながら。




