6章 偽装→??
目を覚ますと、やはり転生の始まりと同じベッドに寝ていた。
傍らには、ターニャがいる。
死んで戻ってきたのだ。しかし、なぜ死んだのか。あのタイミングで攻撃はされていなかったはず。俺自身で魔力を込めたりもしていない。考えられる可能性はノエルに正体を明かしたことだ。
ということは俺が勇者ということを知られてはいけないということか。
――試すか。
俺は体を起こすと、ターニャに向き直る。
「ターニャ、俺は勇者だ」
ターニャは呆気に取られた顔をする。
しかし何も起きない。
伝えたのに、何も起きない。条件が違うのか……ならば。
「ターニャ、俺は魔王の姿をしているが、魔王を倒してその体を乗っ取った勇者なのだ」
すると、あの時と同じ魔力の爆発が起きた。
やはりという確信とともに、何もかもが吹き飛んで意識はなくなった。
◇ ◇ ◇
俺は目を覚まし、前までの記憶を辿り、前線に行くように指示をした。
そして、前と同じように馬で前線へと駆け出した。
前線向かう中で、頭の中を整理していく。
相手に転生したことが理解できてしまうと、戻されてしまうのだ。
ノエルは単純だからすぐ理解してしまい、ターニャは最初は理解まで及ばず、付け加えることで理解まで到達したのだろう。
であるなら、ノエルとの交渉では勇者だということは言えない。
だが、魔王の話を真面目に聞いてはくれない……
そうか……いい案がある。
魔物側にも嘘をつくことになるが、まずは戦いを止めるところからだ。
頭の中をしっかりまとめたところで、前線が見えてきた。
うまくいくといいのだが……
不安を抱えながら、野戦陣地の中に入っていくのであった。
◇ ◇ ◇
将軍に会って、前の記憶を辿りながら話を進めていく。
勇者と戦ったこと、記憶がないこと、人間側の事情を勇者から聞いた体で和平をしていきたいということ。
「魔王様、人間と和平をしたいということはわかりましたが、どうやってするのですか」
ターニャ、将軍ともに懐疑的な様子である。
「勇者から聞いたことを手紙にして、相手の将軍に渡す。勇者しか知らない情報を知っているということは信頼に足りるはずだ。それにこれを無下にするようならそれを口実に人間側を離間させることもできるはず」
「なるほど。和睦と離間策を同時にするということですか。良き策かと思います」
将軍がこちらの話に同調してくれる。
ターニャも頷くと「書状を用意します」と準備に外へ出た。
とりあえずは説得できた……あとはノエルが受け入れてくれるかだな。
椅子の背にもたれると、将軍が寄ってくる。
「魔王様、ターニャ殿が戻ってくるまで時間があるでしょうから、私のことも覚えていないということでしたので、簡単に自己紹介してもよろしいですか」
「そうだな。後回しにしてすまない」
いえいえと首を振る。
「私の名前はブール・ヴェルーゼ。魔王様の配下で三将軍の一人です。魔獣族、魔虫族をまとめております」
ブール・ヴェルーゼ!? 名前は知っている。もちろん、勇者の時の記憶でだ。
基本的に言葉が通じず、好戦的な魔獣族、魔虫族の長で、魔王軍の中でも名前は轟いている。
「すまない。名前だけは記憶にあるが、ほとんど思い出せない」
「名前だけでも憶えていていただいただけでもよかったです」
ブールは厚い鎧を着こんでいるため、種族はわからない。しかし、魔獣族や魔虫族を従えているということはそれに連なる種族なのだろう。
そんなことを考えながら、まじまじと眺めていると、ブールは察したようで兜を脱いだ。
「兜を脱がずに話すのはご無礼でしたね」
兜の下には、整った顔立ちの青年だった。
「え? 人間?」
その姿に驚いでしまった。
「見た目だけですよ。魔王軍の見た目は人型が多いですから、素顔ですと浮いてしまいます。ですので魔虫族の特性である擬態を使ってこのような姿をしています」
擬態!? あれって木とか草に化ける特性なのに、人間にもなれるのか……。
そんなやり取りをしていると、ターニャが入ってくる。
「魔王様、書状の用意ができました。文面のご確認をお願いします」
ターニャから書状の中身を受け取る。先ほど話したことをしっかりと記されている。
「よし。これでいく。使者には俺が行く」
ターニャとブールは急いで止めに入る。
「それは私たちで行きます。魔王様に何かあってはいけません」
俺は手を前にかざして二人を静止する。
「これは魔族と人間の話だ。しっかりと伝えなければならん。それに勇者に勝ったのだ。それ以外の人間に負けはしないよ」
ターニャは前に出ると、「せめて私をお連れください」と詰めてくる。
「わかった。ブール……お前には悪いが、お前はここでいつでも動けるようにしてくれ」
ブールは渋い顔をするが、無言で頷いた。
「では。ターニャ! 行くぞ」
テントから外に出ると、ノエルの元に向かうのであった。




