3章 自決→??
「……おう様、魔王様」
誰かが俺をを呼んでいる。
女性の声。
ゆっくりと瞼を開くと、ついさっき見た部屋だった。
大きなベッドに寝かされている。
「……な、なんで……」
体を起こすと、目に入ってきたのは浅黒い肌に大きな体。
鋭い爪にごつごつとした腕。
傍らで心配そうに見ている女性には浅黒い肌、紫光の瞳、二つの角……魔人だ。
「さっき俺は!?」
剣を突き刺した胸を触るが、刺した跡も痛みもない。
「魔王様、どうかなされましたか」
女性は怪訝そうな顔で近づいてくる。
「お、俺はさっき剣で胸を刺した…刺したはずだ。なんで…生きているのだ」
狼狽えて暴れる体を女性が抑えてくる。
「ま、魔王様。魔王様は、お部屋で倒れていたので、ここにお連れしたのです。お怪我は特にありませんでしたよ」
部屋で倒れていた? 怪我はない?
「待て。部屋で倒れていた? 俺はさっきまでお前と一緒に部屋にいて、俺はそこで剣を突き刺したはずだ」
女性はさらに怪訝な顔をして、俺をベッドに押し倒してくる。
「魔王様。落ち着いてください。魔王様はさきほどお部屋で倒れられていたので、こちらに運んだのです。一緒に部屋にいたり、剣を突き刺してなどいません」
そういうと…女性は力を抜いて距離を取る。
「一度、落ち着くまでお休みください」
灯りを消して、部屋を出ていった。
一体どういうことだ…死んだのに…戻っている?
混乱した思考が少し整ってくる。
――確かめるしかない。
俺は魔力を拳に込めた。
込めた魔力は想像していたレベルではなかった。
とてつもない魔力が集まってくる。
地響きに等しい振動が起きる。
魔力に気づいた女性が部屋に飛び込んでくる。
そして、その魔力は解き放たれた。
見たこともない閃光と轟音…そして、魔王の城があったところは跡形もなく吹き飛んだ。
◇ ◇ ◇
目を覚ますと、そこには何もない空間だった。
上も下も周囲も真っ白で何もない空間。
起き上がって体を見るが、見えるのはやはり魔王の体であった。
一体どういうことだ…死んだのか?
「違いますよ」
不意な声に驚き、振り向くとそれはいた。
それは人の姿をしているが、人とは全く違う。
背には白い翼があり、そこからは光を放っている。
亜人種にも見えるが、その雰囲気はもっと高位の存在であるように感じられた。
「勇者として生き、そして魔王の呪いによって魔王に転生してしまった。それにはもう気づきましたか」
それは顔色一つ変えずに、真実を伝えてくる。
「あなたは魔王の呪いで魔王になり、そして死んでも転生した時点に戻る。最初に死んだときに、ここに連れてこなかったのはそれを理解させるためです」
無常に伝えられる真実に、驚きよりも怒りが湧いてくる。
「あなたの感情は理解できます。しかし、現実は変わりません。その呪いを解くためには、魔王が叶えられなかった願いを叶える必要があります」
魔王の願いだと…?
俺はそれへの警戒を解く。
「そうです。しかし、魔王の願いはわかりません。それを知るためには、あなたが魔王として生きていくしかないのです」
魔王として生きていくしかいない……どうやらそういうことらしい……
「理解できたようですね。それでこの空間から外に出します。あなたの生に幸あらんこと」
すると、急に意識が薄れていく。
薄れゆく意識の中で、不意に魔王の最期の言葉が頭を過る。
――やはり…こうなったか…神は人間が好きらしい…勇者…後悔するなよ…神は手ごわいぞ…
さっきのあの存在は神なのか?
わからないことばかりだが、確実なことは一つ。
俺は魔王として生きていかないといけないということなのだ。
そう思いがまとまると意識はなくなった。




