2章 魔王→??
鏡に映る姿は魔人……しかも魔王そのものであった。
思わず大きく仰け反ってしまう。
そのとき、何かに強くぶつかった。
「きゃっ…ま、魔王様。如何いたしましたか」
俺を魔王様と呼ぶ魔人の女性にぶつかったようだ。
どういうことだ? 俺はなぜこんな姿をしているのだ…なんで俺は魔王と呼ばれているのだ?
混乱する俺を見かねてか…女性は俺の体を起こすとベッドに戻した。
「魔王様…どうやら勇者との闘いがかなり大変だったようですね…まずはしっかりお休みください」
部屋の明かりを消すと、その女性は部屋から出ていく。
理解が追い付かない…
ベッドの上で体を触るが、やはりこれは俺の体の感触があるが、人間の感触ではない。
混乱する頭をどうにかこうにか整理する。
俺は魔王に剣を突き立てて、魔王を倒した。
そして、そのときに見たのは魔王ではなく、俺を刺していたのだった。
そして、気が付くと俺は魔王になっている。
つまり、考えられることは2つ。
一つは、勇者である俺が魔王を倒したが、何らかの方法で魔王と勇者の体が入れ替わったということ。
もう一つは、考えたくないが、俺は魔王でなぜか勇者だと思い込んでいるということ。
恐ろしいことだ…まったくわからないし…どちらになったとしても理解できない…
まずは、あの玉座にいた俺の所にいって確かめなくてはいけない。
ベッドから体を起こすと部屋から外に出た。
部屋の外にはさっきの女性が椅子に腰かけて書類をながめていた。
「ま、魔王様。もうお加減はよろしいのですか」
書類をさっとしまうと椅子から立ち上がって駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫だ。それよりさっきの部屋に行きたい」
「さっきの部屋? 魔王様のお部屋のことですか」
女性は怪訝な顔で問い返してくる。
どの部屋かはわからないが、おそらくはそうだろう。
ボロを出さないように、無言で頷く。
「わかりました。付き添いますので、どうか無理なさらずに」
女性に肩を担がれつつ、魔王の城を進んでいく。
さっきから世話を焼いてくれている女性魔人は秘書か何かなのか?
「魔王様、先ほどは一体何があったのでしょうか? 私があの場に着いた時には、魔王様が倒れていたのでわかりませんでした。」
真っすぐな視線で問いかけてきた。
「それは……勇者と戦ったのだ」
女性は非常に驚いた顔をして俯いた。
「申し訳ありませんでした…お力添えできずに。しかし、魔王様がご無事でよかったです」
そのまま沈黙のまま、廊下を進んでいった。
そして、その扉の前にたどり着く。
あの時、強烈なプレッシャーを感じながら入っていったあの扉だ。
扉を開けて入ると、まったく変わっていない。そう、剣を構えて入ったあの部屋であった。
部屋は薄暗いままであったが、奥に玉座があるのが見えた。
玉座に近づいていくが、薄暗くてよく見えない。
玉座の手前まで近づくと、何かがあることがわかる。
「ま、魔王様。あれは一体…」
心配そうな顔で俺に視線を向けてくる。
玉座にあるそれを掴み、引き寄せると…それはやはり勇者の体であった。
その勇者の体には生気は感じられず、亡骸であることがわかる。
傍らの女性は何か言いたいようであったが、無言で視線を向けてくる。
「これは…勇者だ」
俺は勇者の亡骸を投げ出すと、玉座に座り込んだ。
「勇者…倒したのですね」
女性は安堵の顔を見せる。
「ああ…俺は勇者を倒した…そう俺を」
女性の安堵の顔が不安に変わる。
俺は勇者の亡骸に落ちている剣を拾い上げると、剣の切っ先を自分の胸に当てた。
女性は叫びながら、近づいてくる。
剣に力をこめると、思い切り突き刺した。
自分の胸に強烈な痛みと熱を感じると、そのまま倒れこんでいった。
これは悪い夢だ…そう…夢だ……
体は玉座から倒れこみ、意識は闇に消えていった。




