トントントン、包丁またはノックの音
トントントン、トントントン
困ったわ。困ったわ。たくさんのお肉を切り分けながら、私は眉をしかめた。
やっぱり宅呑みはよくないわ。後片付けが大変なのですもの。
お陰でお風呂はびちゃびちゃ、お気に入りのスカートだって汚れちゃった。
でもお金をくれる素敵な人だったものね。悪い所にだけ目を向けるのはよくないわ。
色々片付けはあるけれど、まずはお肉を処理しなくっちゃ。真夏は遠いけれど、最近暑いんですもの。傷んだら大変。
何日かここに住まわせてもらって、片づけをしないとね。電気や水はすぐに止まらないはずだし。
それにしても、このお肉、食べると美味しいのかしら?好んで食べるなんて、それこそ映画の世界でしか見たことないわ。
……うん。せっかくなので試してみましょう。
私は包丁をフライパンに持ちかえ、油を引いた。
一口サイズに切り分けたお肉に塩コショウをまぶす。レアはあまり食べる気がしないのでしっかりと火を通す。
お箸に掴んだそれをためすつがめつ眺めた後、思い切ってぱくりと食べてみる。
ラム肉に近いかしら?でもクセがあるお肉はあまり好きではないわ。
まあ、私は少食だし、食べられたとしても食べきれないかしら。
そうだ。少しの間だけでもここに住むのだし、料理をもってお隣さんに挨拶にいくのはどうかしら?
うんと美味しいものを作って、喜んでもらうの。そうしたら、私にお金をくれる素敵な男性とまた会えるかもしれないもの。カレーと肉じゃが、どっちがいいかしら。
確か、左右と上下のお部屋に挨拶に行くのが礼儀なのよね?
そうと決まれば野菜を買いに行かないと。
カバンから出したスカートに履き替え、鏡の前で軽く身だしなみを整える。玄関先で脱ぎ捨てていたハイヒールに足を通し、私は扉を開いた。




