表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30

第5話 夢

 新品の布団で眠った朝。

 仕事をしている夢を見て、朝起きて仕事に行こうとしている自分に気づいた。


 嫌な気分になる?とんでもない。仕事に行かなきゃいけないという嫌な気持ちを思い出し、それから解放された喜びを噛み締める。今日は朝からセルフで幸福を実感したぜ。やっぱり無職は最高だ。


 冷蔵庫を開けて、キンキンに冷えた水を一気に飲む。最近どうにも腹が減って仕方ない。空になったペットボトルに美味しい水道水を入れ直し、浄化してからまた冷やしておく。

 ラーメン二袋食いで誤魔化していたが、いよいよ我慢ならん。最近はしっかり運動してるからなぁ。


 飯を食いに行くならシャワーを浴びてヒゲを剃ってまともな服を着て…面倒くさいな、やっぱり宅配か?


 という事でネットスーパーで注文することにした。朝の内に頼めば夕方には届くんだ、コスパの悪い宅配飯なんぞ俺は絶対に食わんぞ。

 いつもの買い物に加えて200円のピザと追加用のチーズ、肉まん、アメリカンドッグ、冷凍たこやき、ビッグカツとブラックサンダーまで買ってやった。

 ふははは!素晴らしい贅沢だ!夜が楽しみになったな。


 朝飯のラーメンがいつもより美味しく感じる。やはり心に余裕があると違うぜ。



 食事を終えて草原にやってきた。

 今日はいつもとは違う。自転車を持ち込んだのだ。

 これに乗って少しだけ遠くに行ってみよう。ちょっとした冒険だ、何もなくたって構わない。俺は自由だ、好きに生きるのだ。


 自転車にまたがって漕ぎ出した。草の上はクッソ走りにくい。自転車を元の場所に戻して自分の足で歩き出した。


 歩くこと20分ほど。出口を見失うのが怖くて、何度も振り返りながら進んだ先。

 景色はほとんど変わらないが、芝が途切れて土が剥き出しになっている場所へ出た。

 小さな丘になっていて、遠くからもよく見えた禿げ丘。そこには動く土人形共がいた。


 膝くらいの高さしかなく、ふらふらとうろついている。スライムと大差無いように見える。あちこちでふらふらしているが、目的のある動きには見えない。


「セイ」


 とりあえず蹴り壊した。胴体と片腕がボロっと崩れる。


「いでっ!いでで!」


 生意気にも残った腕でこちらの足を殴ってきた。

 結構痛い、痣になっちゃうだろうが!残った体を蹴り飛ばすが、土塊はもぞもぞと動き続ける。

 不気味に思い、蹴り飛ばした部分を踏み崩していると硬い物を砕く手応え。土人形は崩れ落ちた。


 ん~?ゴーレムってやつなのかな。とすると俺が破壊したのはコアか?

 まぁたぶんそういうことなんだろう。崩れてから10秒たつとポンッと音がして変化した。


 さあ次は500円かな?ちょっと強かったし1000円でもおかしくないな。

 そう思っていたのに、出てきたのは玉。

 スキルオーブやない、これ土団子や。

 ムカついて地面に叩きつけた。土団子は砕けてただの土となった。

 俺はやる気を失って帰った。



 帰っても昼にもなってなかったが、あくせく働くことは無い。

 夕方にはネットスーパーが届くから、それまで動画を見ながらネット掲示板でもみよう。


 Vtuberが楽しそうにゲームをしているのを流しながら掲示板を開く。


 関西版万博スレか。開いてみると中は濃厚なホモスレだった。クソが。

 自炊スレか。俺もレシピを開拓したいな。電気ポットに小便をするという地獄のような話題で盛り上がっていた。


 クソがよぉ、こいつら本当にVtuberちゃん達と同じ世界に生きているのか?とても同じ生物とは思えないぜ。

 掲示板は一旦閉じて動画を漁ることにした。


 あ、この子最近よく見るんだよな。

 俺は深く考えずに動画をクリックした。してしまったんだ。


 そこにあったのは、男Vtuber相手に媚びた声で遊ぶ少女の姿だった。

 あ、あ、でもこの子は、この子は同じ事務所のあの子といつも一緒で、あ、あ、あうあ――



 俺はそっと動画を閉じて、再びトイレの向こう側へ走った。

 さっきは20分もかけた距離を1分足らずで埋める。そこにいたゴーレム達を無心で叩き潰した。

 土団子なんていらない。誰も悪くない。文句なんてない。あの子はがんばっている。おかしいことなんてない。

 ただ悲しかった。俺はただ、世界には綺麗な場所があるって信じたかったんだ。


 やがて熱も冷め、あたりを見わすと、ゴーレムはいなくなっていた。


 ネットスーパーが届くのを思い出して急いで帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ