第30話 雪よ!雪よ!
食事を済ませても帰る気にならなかった。
別に理由なんて無い、ちょっと怖いだけ。だって明かりがないし。
ずっとあっちの世界に惹かれていた心が、少し現実に傾いた気がする。ただ近くに人がいるだけで安心する。前を歩くおっさんが日常の象徴に思えた。
ホームセンターでLEDランプでも買っておけばよかったな。大規模停電してるんだから今こそ売り時だろ?露店でたたき売りするくらいの根性出せよ。
さて、今夜は帰りたくないのなんて思っててもしゃーない。自宅に戻ることにした。
◇◆◇◆◇
相変わらず暗く静かな部屋。と思いきや電気が通ってるじゃないか。周辺をちゃんと見てなかったと気づいて窓から外を眺めると、ご近所さんの部屋からも明かりが見えた。街灯も付いてるぞ。
なんだ、少しの差だったんじゃないか。
明るくなった部屋を見ると安心する。町もいつも通りだ。俺ビビりすぎなんだよなぁ。
失ったように思えたいつも通りの日常がたまらなく嬉しい。これを手放そうとしていたなんて馬鹿だったな。
そうだ、あの世界は利用するだけでいいんだよ。体も生まれ変わったみたいに動くし、便利なスキルも手に入るんだからそれで十分だ。
明日からまたお金を貯めよう。以前に5.6mくらいの高さで赤スライムから10万円出たんだ。今も高い所はそれくらいある。
朝になったら花畑を燃やしながら青スライムを倒そう。お金を拾って、蜂蜜を置いといて、そのお金を銀行に入れてクレジットカードの引き落としを……。
「ぐう・・・」
考えているうちに寝た。
◇◆◇◆◇
翌朝。
「今日も元気に頑張るぞい!」
スライムを狩るぞ!俺はトイレのドアを開けた。どしゃ降りだった。
しまった。そう言えば雨を降らせたままだったな。
これ解除しないとずっとこのままなの?俺の寿命とか吸ってないよね?
とり急ぎ解除した。熱波に切り替える事も出来るがまた倒れたら面倒なので、雨雲だけ散らしておく。
草原は結構荒れてる。特に高くなっていた花畑はかなり削られたようだ。土だしな。
代わりに川がすんごい勢いで流れていた。水源はすぐそこの謎の池なんだが?
これは川に雨が流れ込んだ自然現象ではなく、天候効果なのかも。
雨なら増水するんだろう。熱波や雨なら水に近いモンスターは存在出来ない?そう言えば土エリアの土人形の姿もない。
草原はモンスターがいないだけ、水系エリアは荒れていてちょっと避けたい感じ、土エリアもモンスター不在、花畑はレベルダウンだけで大丈夫そう、畑は離れてるが多分花畑と一緒だろう。
牧草エリアは変化無し、ステップも変化無し、灰の森も変化なしだった。
他の天候なら今と違う反応があるんだろうな。熱波の時にスライムがアイテム化したのは確認したが、魚や植物はどうだったんだろう?強い風が吹けばガストは消えそうだし、冷気であれば生物系が消えそう。
スライムもいないし試してみるか。
入口ドアの裏側の方向に向かって走り出した。少し距離を取りたい。
後ろをちらちら確認しながら、少し低くなった花畑がギリギリ見える距離まで移動。ここで実験だ。
「雪。雪よ降り続けろ。出来るだけ狭い範囲でだ」
なんとなく腕を上に上げて、声に出した。スキルの使い方は脳にぶち込まれているが、それでも訳わからんスキルだ。こんな時、どんなポーズを取ればいいかわからないの。
スキルを発動すると体から力が抜けていく。同時に周囲の気温が少し下がった気がした。
冷やされた空気から白い霧が現れ、それらがくっついて雲となっていく。気圧が変化したのか、鼓膜が圧迫された。
見上げれば既に小さな雪が舞い落ちてきている。ふわふわの粉雪が草原に落ちて転がりだした。
もっと効果を強くした方がいいかな?いや、とりあえずこれで効果を見てみるか。
雪が降っている範囲はそれほど広くない。縦横5マスで25マス分くらい?25m*25m程度の範囲だ。上手く範囲を絞れたのか、そうでもないのか、微妙なところだな。
中心から離れるとすぐに雪が止む。だが、周辺も十分に冷えていた。
天候操作は疲れる。スライムたちも湧いてないので、一旦部屋に帰って休むことにした。




