第26話 スーパードクター
自然治癒というスキル名には違和感を覚えるが、勿論スキルの内容は俺の脳にぶち込まれている。
これはちゃんとした回復魔法と言えるだろう。ただ、白い光が包んで全てを癒すなんてのじゃなく、自身の体の働きを超促進して癒やすスキルだ。
それは分かるんだが、ガンとか虫歯も治るんだろうか?下手すりゃガン細胞まで増殖しかねない。
どうだろう?まぁ分からないなら試してみればいいか。
ネットでホスピスを探して……電気通ってないわ。
スマホで調べ物するの嫌いなんだよな。なんでみんなこんな小さくて使い難いものに夢中になるんだろうか?俺は絶対PC派。
もう適当に近くにある病院に侵入しよう。ガンについては保留でいいや。
医者に変身して病院に侵入し、勝手に治癒を試すぜ。
どんな医者に変身しようか。やっぱり闇医者と言えばブラッ◯ジャックだろうか。
いや、闇医者満艦飾というのも嫌いじゃない。
うーん、よし!スーパー◯クターKで決まりだ!
名作だよなぁ、医学的な解説も面白くてシリアスとシュールギャグの配分が最高だよ。
早速変身した。
筋肉ムキムキで暗殺拳の伝承者のような面構え、どこからどう見ても医者だな!
リストバンドとマントが欲しいんだが、あんなもんどこで手に入るんだ?医療道具もマントの内側に仕込みたい。
上半身裸でムキムキの体を鏡に写してポーズを取る。
「オペ室は俺が生まれ育った場所!いわば俺の故郷!」
ビシィ!う~んカッコいい!やっぱコレだわ。言葉の意味はさっぱり分からんけど。
テンションが上がった俺は、シーツを首に巻いて窓から飛び出した。
「流水キーック!」
患者が俺を待っている!!
◇◆◇◆◇
ついパッションで飛び出してしまったが、玄関に戻って靴を履いて病院へとやってきた。
いわゆる総合病院だ。規模はよく分からんが、そこそこ広くて3階建てかな?
人の出入りが多いので俺が紛れ込んでもすぐには分からんだろう。
折角スーパードクターに変身してきたのに、白衣も無いので一般人に紛れて病棟に入った。
看護師の詰め所のようなところがあるんだが、あそこに白衣があるだろうか?でも看護師は白衣じゃなくて制服だよな。
困っていたら向こうから医者の男が歩いてきた。眉間にシワを寄せて難しい顔をしている。
大変そうだな、少し休みたまえ。後は俺に任せろ。
スーパードクター奥義!有情◯顔拳!せめて痛みを知らずに安らかに死ぬがよい。殺してないけど。
白衣を着て医者に扮する。少々というかだいぶ小さいが我慢だ。
さっさと治癒を試したいが、相部屋はちょっと都合が悪い。大体個室なんかは高層に設置してるはずなので移動しよう。煙と金持ちは高いところがすきなんだ。
思惑通り、個室が並ぶところに来た。
下階は部屋の入口に扉は無かったが、こちらは全てちゃんと閉じられていた。
どうせ治療をするなら薄幸の美少女を助けたいのが人情であるが、下階で確認したのはほぼほぼ爺さん婆さんであった。
まぁいいさ。若いほうが効果が分かりやすい気はするが、自然治癒力の弱っている老人をスキルで無理やり働かせるのも効果を測るのに悪くない。
こんこんこん。
「入りますよ」
返事を待たずに入った。名札は確認済みだ。
「始めまして今泉さん。私は特別に呼ばれたスーパードクター小林です」
「ひょうでふ」
何を言っているのか分からん。ただの老衰ってわけじゃなく、何か症状があるんだろうとは思うが、俺は医者でもスパイでも無いので分からん。
俺がやること、それは自然治癒スキルをぶち込むだけ。
「だいぶ悪そうですね。安心してください、フルパワーで行きます」
スキルの概要は分かっているが、一般人に使ってどうなるかは分からん。分からんのに勝手に人体実験をしようとしているんだ。
最低の行為である。だからせめて、俺は全力でスキルを使う。
様子見とか、とりあえずとか、そういうのは駄目だ。
何が悪いのか分からんがとにかく治す。どんな症状も全て治す。そのつもりで来た。
患者は身を起こすことも出来ないようだ。爺さんなのか婆さんなのかも判断つかん。
俺は同意も取らず、老人の布団を剥ぎ取って腹のあたりに手を当てた。
「カラダもってくれよ!3倍自然治癒だ!」
だぁぁぁぁぁぁ!!という気持ちでスキルを発動した。
エフェクトは無い、ただ俺の中から何かの力が抜けた感覚があった。
「うぐっ!」
老人の体が激しく反応する。何がどうなるんだろうか?ただ自然治癒能力が猛烈に高まっているはずだ。
「ああああああああああ!!」
「な、なんじゃあこりゃあ!?」
老人の顔が……顔が……若返ってる!?
70代!60代!50代オーバーだと!?
性別も分からなかった老人がおばあさんになり、おばさんになり、妙齢の女性へと変わっていく!これって治癒なの!?
「ぎいぃぃぃぃぃぃ!」
今度はすごい勢いで痩せ細っていく。ヤバい、体力が足りないんだ。
自然治癒は体の持つ治癒能力を無理やり強化するスキル。体を癒やすには相応のエネルギーが必要になるんだ。
「こんなこともあろうかと!これを用意していたんだ!」
家から持ってきた蜂蜜の瓶を開けて口にぶち込む。
10m以上級の高級蜂蜜だ。たぶん栄養もたっぷりだろう。ベタベタの蜂蜜が大量に溢れているがこの際知ったことか。
「ゲブぅ!ゲボッゲボッ!」
不味いぞ、更に苦しそうだ。一体どうすれば……そうだ!
「自然治癒!4倍だぁぁぁぁぁ!!」
ドックン!患者の心臓が大きく跳ねる!限界だ!!
「ガガガガガガ!!」
がんばれ!乗り越えるんだ!
しかしそこに闖入者!何らかの信号が送られていたのか、看護師が扉を開けた!
「あ、あなた!何をしているんですか!?」
「待てェ!この部屋に入ったら死ぬぞ!」
「何を言ってるんですか!今泉さん大丈夫ですか!いまいず……今泉さん!?」
いかんこのままでは患者が死ぬぅ!
自然治癒のスキルは効いている、蜂蜜でとりあえずの栄養も入っている、後はこの患者の生きる力だけだ。
「はぁぁぁぁぁ!刹◯孔!!」
太腿に指をぶっ刺した。そして体の中の悪い物をイメージして浄化を発動する。
どうなるかは分からん。ただ、死なせたくない。俺の実験は非人道的な物だが、俺なりに真剣なのだ。
「はぐぅっ!」
元老人だった患者は大きく跳ねてから動きを止めた。
顔を覗き込めば、そこには愛らしい少女が落ち着いた呼吸で眠っていた。顔の周りは蜂蜜でベチャベチャだが。
「あなた一体何なんですか!?とにかく来てください!」
「断る。次の患者が俺を待っているんだ」
俺は白衣を脱ぎ捨て、窓からダイブした。
自然治癒はマジでなんでも治癒してしまう事がわかった。老化すらも。
こんなもん使えねぇよ。