第2話 強くなりた・・・いか?
スライムを討伐して100円を得た。大変素晴らしい成果だ。勢いで仕事を辞めることが出来たのも嬉しい。
100円を拾った後に周囲を見回した。するとスライムはまだまだそこら中にいる。少し興奮しながら、手にした100円玉をじっと見つめた。
一刺しで倒して100円玉に変わるまでが10秒くらいか?
移動して、倒して、100円玉に変化したら拾う。1分間に1匹倒していけば時給6000円になる。
仕事に行っていたら、往復で1時間、出発前の準備で1時間、一晩中移動と作業を繰り返して、開放されるまで11時間。それを30日で手取り21万だ。
一方でスライム狩りならたったの35時間で済む!約3日分だぞ!税金もかからず社会保障も負担0!最高じゃないか!
と、つい舞い上がってしまったが、まだ一匹倒しただけだ。まずは落ち着いて次のスライムに向かう。
「頼むぞ。贅沢なんていらないんだ。出かけなくていいなら月に18万あればいい。収入が隠せるなら生活保護を貰いならが5万も稼げたら十分なんだ」
せこい計算をしながらスライムに近づき、先制でブスリと刺した。
やはり一撃で潰れるスライム。その様子を伺っていると。
ポンッ!
「やった!やったぞ!」
そこには輝く100円玉があった。
◇◆◇◆◇
こんなに何かに打ち込んだのは記憶に無い。
俺は100円という目に見える成果と、将来に渡る適当な生活を想像して、ひたすらにスライムを倒して回った。
出口を見失うなんてことも無く。100円玉を丁度100個になるまで集めた。
枯れる様子のないスライムの姿に安心して部屋に戻る。
靴も履いてなかったので少々廊下を汚してしまうが、面倒なので掃除はまた今度でいい。
草原から見た我が家への入口は、何も無いところにぽつんと扉が立っているだけの、不気味でちっぽけな存在だった。
部屋に戻った俺は、100円玉をポケットにぶち込んで外へ出た。
この100円玉が使えるか実験だ。ここまでファンタジーなことが続いているんだから、きっと謎の理屈で平気だとは思うが、安心したかった。
人に渡すのは怖いので自販機へ。いつも使っている100円自販機に100円玉を投入し――
ピカッ!
商品ボタンが点灯した!使えるぞ!
「勝った!大勝利!」
いきなり人生勝ち組ですわ!がはははは!
そのままコーヒーを買って飲む。うむ、拾った金で買うコーヒーだと思うと美味いなぁ!
十分な満足を得た俺は、コンビニでトイレを借りて欲しくもない唐揚げを買って帰った。
落ち着くとすごく眠い。昨日は一晩中働いていたんだ。敷きっぱなしの万年床に入り、寝転がって唐揚げを摘んでそのまま寝た。
「ぐぅ・・・・・」
◇◆◇◆◇
目覚めると夕方だった。すこぶる体調がいい。毎日無気力でぼんやりと眠かったのに、子どもの頃のように体がスッキリしている。
とりあえずすぐにトイレの状態を見に行く。これで元通りとか本当に辞めてくれよ?
「頼む・・・頼むぞ・・・・・・!」
広がる草原を期待して扉を開けた。そこには茜色に染まったそらと緑の大地があった。
よし、しっかりと繋がっている様だ。向こうも時間が経ったようだな。時間間隔が狂わなくていいかもしれない。
今度は靴を持ってきて、草原に踏み入った。
空と同じ茜色に染まったスライムがぴょんぴょんと跳ねている。低い位置を跳ねているこいつらには、短い包丁だと体勢が辛いんだよな。
もう一度蹴り飛ばしてみよう。なんだかやれそうな気が、今は体のキレが違う気がする。
俺は軽く助走をつけて、スライムにサッカーボールキックを食らわせた。
「セイッ!」
パンッ!
「おぉっ、やったぞ」
スライムは綺麗に破裂した。
やっぱり体の調子がいい。軽く屈伸をしても体の重さが無い、肩を回すと簡単に背中が触れた。最後に軽くジャンプすると、思っているよりずっと高く飛び上がって尻餅をついてしまった。
スライムを倒して小銭を得ながら体が強くなっている。
こんなもん、レベルアップに決まってんだろ。それ以外思い浮かばない。これだけファンタジーなことが起こっているんだ、いちいち疑問に思う必要はない。考えるな、感じるんだ。
金が稼げて健康になるなんて素晴らしい。さあもっと金を集めよう。
ポンッとスライムが変化する。100円を拾おうとしたら、そこには2枚の100円玉があった。
えっ?なんで?ダブってたとか?
とりあえず200円を拾って、次のスライムに向かう。変わってないよな?昼間倒したのと同じスライム……いや、赤いぞ。
空の色が映っていると思ったが、よく見るとスライム自体が赤い。
「ほっ!」
パンッ!
スライムを倒して少し待つと、やっぱり200円が出た。
夕方のスライムは赤いスライム、200円を落とす。なら夜は?
「夜は危なそうだから今日は帰ってだらだらしよう」
夜はパスタを茹でて、マヨと麺つゆを絡めるだけ。楽しそうにはしゃぐVtuberを眺めて眠った。