第12話 気力が湧いてきた男
魚を食い損ねた。
魚は切り身で泳いでいるわけじゃないんだ。昔、「キッズは切り身が泳いでいると思っている」という話が出回ったことがあったな。100%嘘だわ。
ちっちゃい川魚くらいなら腹もそのままで塩焼きという手もあったんだけどな。
これ、肉もそのまま出るのか? 無理じゃん。
隣の女子大生にあげるとかできたらいいんだが、隣に住んでいるのはおっさんだ。
右が痩せたおっさんで、左が太ったおっさんだ。終わったな。
まぁいい。丘の上に魚を置いてきたので、魚を吸収して丘が高くなるかをチェックするのに使う。これはこれでいい。
吸収するか確認する間に、次に何を作るか考えてみるか。
うーん、土→花壇→畑だったから、その間がないか探るか? ……地味だな。
魚で地面が盛り上がるのを確認できたら、川を作るのはどうだろう。
前から考えていたことだ。川を引いて、橋をかけたりして……砂場遊びかよ。
特に欲しい収穫物がなくなっちゃったんだよな。お肉欲しいけど、生物そのまま出されても食えないし。
それならスキルで考えてみるか。まずは土人形のスキルを取っちゃうのはいいな。あとは……魔法を使いたい。
変身なんて魔法だろ、きっとファイアとかブリザドとか使える様になるはずだ。だからそれっぽい地形からそれっぽいモンスターを出したい。
魚から水系魔法が出る気がしない。どうせ噛みつきとかだ。火ならどうだろうか? リアルに火の中で活動する生物なんていないし、魔法的なやつが出てきそうだぞ。
よし、地面を火属性にしてみよう。
とりあえず長時間燃やし続けたらいけるんじゃないかな。キャンプファイヤー? 長く燃やすなら特殊な積み方の焚き火があるはず。
ネットで調べると、良質な炭なら最大8時間くらい燃えるらしい。焚き火は大きな薪から順に敷き詰めることで、同じく8時間くらい。
でも薪を買うのは難しい。良質の炭の価格は20キロで6500円。クッソ高いが、これを燃やして一晩放置すれば火エリアになるはずだ。たぶん。
通販を待つのが嫌で、ホームセンターまで走ることにした。20キロ程度の荷物、軽い軽い。ちゃちゃっと走って買ってきた。
まずは火エリア候補を決める。水場の反対だ。花畑に引火したら困るしな。
コンロで着火させて、鍋に入れて運んで、地面に並べていく。
20キロ並べ終わった頃には、まさにエリアって感じになったぞ。これなら大丈夫なはずだ。
「………」
赤々と燃える炭。それを3つほど割り箸でつかんで鍋に戻す。
「………」
花畑の前にやってきた。憎き花畑だ。
「そぉーい!」
炭を投げた! 花畑の中に転がる灼熱の炭! すぐに煙が上がりだした。
燃えていく。花も、蜂も。一切の抵抗を許さず。あぁ、火って怖いな。
ポンポンとドロップアイテムが生まれるが、今回はそのままにする。一応花のスキルオーブが出ないか確認していたが、大丈夫そうだ。まだまだ500には遠い。
この平らな状態が一番下だと思うんだよな。てことはこのまま吸収させたら地面が盛り上がるんじゃね?
その状態でもう一度同じことをしたらどうなるのかも検証したい。
どれもこれも待ち時間があるのが面倒なところだ。
少し離れたところで芝を剥がして、土人形が出るエリアを作っておいた。ここもリポップ待ちである。
仕方ないので、山の上の通常スライムぶち潰したら4万円が出た。そうだ、使えないんだった。
500円玉だよ。今俺が求めているのは500円玉なんだ。
畑には花と蜂蜜が転がっているので、ここから少し取って草原に適当に転がしておいた。
少しだけ成長しろ。具体的には、通常の水色スライムが500円落とすくらいだ。500円あれば一枚で一食になる。
部屋に帰る前に辺りを見回した。大きな山と丘、剥き出しの土、ドロップアイテムだらけの花畑、そして池と草原に転がる燃える炭。
見渡す限りの草原を汚した人の営みって罪深いな。
反省のために人生初のスパチャを送った。これが人の業ですよ。
草原のような若草色の枠に囲われたのは、人生初スパチャ。Vちゃんの体調を慮った一声だ。「そろそろトイレに行く時間でしょ、大丈夫?」
読まれることはなかった。