第11話 池
デカ赤スライムを倒して得た10万円。二つ、考えることがある。
一つ、これ使えるのか? お札には通し番号があるんだろ? ……まぁ使ってみりゃいいか。
一つ、なぜデカスライムが現れたのか。突然現れた山が原因なのは間違いない。
蜂蜜がなくなっていたってことは、当然蜂蜜が影響してるんだろうけど、土団子の時ほど直接的なイメージが湧かないな。
蜂蜜だから吸収したのか、何でも吸収するのか、草と蜂蜜の組み合わせだったからか、それがわからない。
もう一度花畑を乱獲して、花と蜂蜜をそれぞれ分けて置いておけば、何かわかるかもな。
山を見上げて、どうしてこうなったんかなぁと物思いにふける。
……あれ? ちょっと低くなってね? 低くなってる……はずだ。
仮説を立てよう。
草の地面が盛り上がったのは、蜂蜜を吸収したからだ。蜂蜜のエネルギーが地面に吸収されて盛り上がった。
盛り上がった地面から強力な赤スライムが生まれて、ドロップは10万円。
赤スライムを生み出すためにエネルギーを使って、盛り上がった地面が少し下がった。
こういうことじゃないか?
これで高低差が付けられたら、池から川が作れるな。
どんどん楽しみになってきたぞ。
さて、一万円札の方はどうしようか。
一枚だけ使って、少しの間だけ様子を見ようかな。偽札だったらニュースにでもなるだろうしな。
一万円が使える自販機なんてあるかな? 駅の切符売り場で使えたような? 自分で利用したことはない。
コンビニで使ってみるか、ATMに入れるか。どれが安全だろうか?
いや、捕まるかどうかの前に、違法かどうかだよな。
日銀が発行した日本銀行券なのかどうかだ。拾得物? これは俺が体を張って働いた結果なんだから、倫理的にはOKだろう。
そうだ。一旦警察に持っていこう。剥き出しの10万円が落ちていたと言って渡してしまえばいいんだ。
そしたら調べるくらいはするだろう。渡してしばらく経っても何もなければ、新しく拾った分は使えばいい。
これで決まりだな。
もう夜だが、駅前の交番に届けてきた。さっさと渡しておいた方が早く使えるからな。
たかが落とし物を届けただけなのに一時間近く拘束され、職業を無職と答えた時に鼻で笑いやがった。なんで職業を聞く必要があったんですかね。
それと、どうして警官ってタメ口なんだろう? 別に失礼だろがーなんて言わないが、社会人になってから知らない人にタメ口で喋りかけられるなんて、経験が無いからびっくりした。
この後は家に帰ってのんびり過ごした。池を確認したら三割ほど溜まっている。明日には溜まりきるだろう。楽しみにして、ぐぅぅ……。
翌朝。
「す! すげぇぇ!」
池は完成していた。本物の池だ。
ビニールシートだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。
そこにあるのは小さいが本物の池。覗き込むと魚の姿も見える。
ビニールシートは吸収されてしまったようだ。ホースはそのまま残っている。
「ほーれほーれ、さかなー、襲ってこーい」
池のそばでバタバタアピールするが襲ってこない。なんでだよ、魚食わせろよ。
これ釣りか? ミニゲームか? 釣り竿なんて持ってないんだが?
仕方ないので中に入る。追い込んで手で捕まえてやろうじゃないか。
まぁこれも遊びと考えれば悪くない。
ドボン!
おっと足がすべ……すべ……深い! 足がつかないぞ! 一メートルしかなかっただろ!?
ガブッ!
「うぎゃぁぁぁ!」
魚に噛まれた! やっぱり魔物じゃねぇか! クソッ! 誘われた! なんてずる賢いやつらだ!
がぶがぶがぶがぶがぶ! 大量に集まってきて、牛に群れるピラニアみたいに齧りだす! ちくしょう! 舐めるなよ、魚類ごときが!
「ダッシャアアアア!!」
ドパァァン!! 激しく水面を叩く! さながらクジラが叩きつける尾ビレのように! その衝撃は水中に伝わり、雑魚どもを痺れさせる!
「ほい! ほい! ほい!」
浮かび上がった魚を次々と陸に放り投げ、最後に俺も戻る。
ぴちぴちと跳ねるお魚を容赦なく踏み潰した。
ポンッ!
そして現れる魚。ポンッ! ポンッ! ポポポポンッ! ハーイッ! 様々な種類の魚だ。
しかしこんなもん、俺には捌けない。
仕方ないので、小さな丘の方に捧げておいた。