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激動を終えて

 日が沈み薄らな明かりだけが灯された門前屋敷の一角、そのはずれにある小さな屋敷の前に一鉄は案内されていた。


「えっと、ここでいいんだよな」


 門前屋敷街の端にある古屋敷。言われていた場所は確かにここで会っているはずだ。

 一鉄は門の前に立つ足軽に話しかける。


「すみません。信長様からの紹介で来たものですが……」

「一鉄様ですね。お待ちしておりました」


 守衛らしき男はこちらに気づくと、笑顔で寄ってくる。

 丁寧に頭を下げた彼は、古びた門を開けて一鉄を中へと案内する。自分よりも随分と年上に見えるが、とても物腰の柔らかい優しい侍だった。

 男は寝室から居間、果ては便所に風呂場まで手早く説明してくれる。


「――一先ずは、以上が屋敷の大体の説明になります。後はお付きの小姓や侍女にお申し付けくだされ」


 一通りの説明を終えて、男は笑顔で挨拶すると早足に屋敷を後にした。向かう方向から考えるに、恐らくは信長の元へ向かうのだろう。

 一鉄は後ろ姿を見送ると、従者の者が控えている居間へ向かう。

 長い廊下を歩き、一際大きな障子の前にたどり着くと、一鉄は勢い良く障子を開く。

 臆してはいけない!

 元気よく接しなければ!


「はじめまして! 南一鉄で――」


 パシーンという乾いた音が部屋に響き、勢い良く部屋に入った俺は室内の光景を見て固まってしまう。

 そこにはまさに衣装を整えようと半裸姿で立ち尽くす少女の姿があった。

 一瞬の静寂。一鉄と少女はお互いに見合ったまま固まってしまう。

 顔、胸、腰回り、足元と、一鉄は視線を動かして、もう一度視線を顔へと戻す。

 胸元を隠した少女は、可愛らしい整った顔を真っ赤に染めながらわなわなと震えている。

 

「きゃー!」


 震える指先を突き出して、彼女は一鉄を指差して甲高い声を上げたのだった。




「えーっと......どういった状況かお聞きしても?」


 悲鳴を聞きつけて飛んできた小姓の男は、手をついて謝る侍女と顔を上げさせようとしている一鉄を交互に見て困惑の声を上げる。


「あ、はじめまして! 新しくお世話になる一鉄です」

「あ、はじめまして。小姓の兵太です」


 この状況でも、主人への挨拶は忘れない。

 簡単なあいさつを交わすと、兵太は頭を下げ続ける侍女もとい友人を助け起こす。


「紫、何やってるのさ」

「兵太、私とんでもない無礼を働いちゃったの......」


 先程までと違い、紫は顔を蒼くして一鉄に向き直る。

 一鉄は彼女がとても怖がっていると察し、慌てて誤解を解こうとする。


「いや、紫さんは何も悪くないんです! 僕がうっかり着替えを覗いちゃっただけで......」

「着替え、ですか?」


 一鉄の話を遮って、兵太は一鉄の言葉に強く反応した。

 彼は、自分から顔を背けている紫の方を向くと、先程までの態度からガラッと変わった鬼の剣幕で彼女を見つめていた。


「先に済ませておきなって、僕言ったよね?」

「そ、それはあ......」

「それなのに大声上げて主様に迷惑かけて......」


 兵太は見た目に反して随分と怖い人なのだろうか。幼さの残る顔立ちからは想像できない剣幕だ。

 

「うう......ごめんなさい」

「謝るのは僕じゃなくて主様にでしょ。ほら」


 兵太に促された紫は、涙目になった顔を向けると、もう一度深々と頭を下げる。


「申し訳ありませんでした一鉄様......ごめんなさい」

「大丈夫だよ。気にしてないし、そんなにかしこまらなくて大丈夫だから。兵太君も」


 兵太は驚いた様子だったが、主人の言うことは絶対のようだ。彼は反論もなく素直に頭を下げる。


「改めて、今日からお世話になる南一鉄です。よろしく」

「よろしくお願いします!」

「……よろしくお願いします」


 それからはトントンと事が進んでいった。家臣になったばかりの人間が食べるとは思えない豪華な食事を食べた後は、入浴を済ませて就寝の準備だ。

 服を着替え寝所に到着した一鉄は、紫たちが用意してくれていた柔らかい厚手の布団にダイブする。

 三重に重なった布団は衝撃を吸収し、そのクッション性と心地よさで一気に睡魔を呼び起こす。

 思えば、激動の一日だった。

 現代の皆はどうしているか。

 これから自分はどうなってしまうのか。

 様々な考えが頭の中をよぎるうちに、一鉄の意識はは心地良い夢の世界に沈むのだった。


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