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グリムシュタット伯爵にお会いしました

……………………


 ──グリムシュタット伯爵にお会いしました



 城までは馬車で向かうことに。


「さあ、お乗りになって」


「では、失礼して……」


 馬車に乗るって実は初めて。


 湯布院とかの観光地だと馬車に乗る経験ができるけど、ここ最近のオーバーツーリズムで観光地は西から東からの外国人がたくさんだからトライしにくいんだよね。


 というわけで、俺は初の馬車を味わうことにした!


「うおっ!」


 しかし、これが揺れる揺れる。道がそもそも舗装されていないし、加えて恐らくこの馬車にはサスペンションというものがない!


 滅茶苦茶がたがたする馬車は……5分も経験すれば『もうやめてくれ!』と言いたくなるものであった……。


「着きましたわ」


 これだけ揺れてもニナさんは態度を崩しておらず、リーゼロッテさんも平気そうだった。この世界の人たちにとってはこれが普通なのか……。


「お帰りなさいませ、お嬢様。そちらの方は?」


「客人です。父に会わせたいのです。応接間に通しておいてもらえますか?」


「畏まりました」


 城を守っており衛兵がニナさんの求めに応じて使用人らしき人を呼ぶ。使用人は一瞬リアルなメイドさんを期待したが、俺がサブカルの知識で知っているメイドと呼ぶには地味な服装の女性だった。


 う~む。ちょっとがっかりしたかも……。


 だが、ここにはメイドさんを見に来たわけではない。商談をしに来たのだ。


「こちらへどうぞ」


 俺たちは使用人によって応接間に案内された。


 現在のオフィスの応接間と比べると、やはりいろいろと違う。椅子はソファーじゃなくて木製のただの椅子だし、壁には写真ではなく肖像画が並ぶ。


 それからちょっと薄暗い。城の窓が小さく、それに加えて光源らしき光源が室内に存在しないためだ。現代の電灯に照らされた明るい部屋になれていると、やはりこれはちょっと暗い。


「リーゼロッテさん。領主のアルノルトさんってどんな方なんですか?」


 俺は伯爵閣下本人に会う前にリーゼロッテさんから情報を得ようとした。


「いい方ですよ。私をこのグリムシュタット村に招いてくれたお方ですから」


「え? リーゼロッテさんってアルノルトさんに招かれてここに?」


「ええ。開拓村に魔法使いがいると何かと便利ですからね」


 病気の治療や山賊の出現に対処するのに魔法使いは役に立つとリーゼロッテさんは言っていた。確かに祖父の足腰を治療してくれたのもリーゼロッテさんだ。もし、治療魔法というのがあれば、医者として役に立てるだろう。


 そこで使用人の方が戻ってきた。


「領主様が参られます。ご起立を」


「は、はい」


 俺は慌てて椅子から立ち上がり、リーゼロッテさんも続く。


 そして、この地の領主でありグリムシュタット伯爵であるアルノルトさんが、ニナさんと一緒に姿を見せた。


 アルノルトさんは40代ほどの男性で、頭はスキンヘッドながら人の良さそうな笑みを浮かべた人だった。体形は中肉中背で、そんな体にザ・貴族というような上等そうな衣装をまとっている。


「君がジン君か。娘が言うには何でも面白い品を扱っている商人だとか」


 にこにことしながらアルノルトさんがそう尋ねてきた。


 別にこれまで商売はしていないのだが、ニナさんは俺を商人として紹介したらしい。その方が都合がいいので乗ることにしよう。


「はい。こちらのようなお菓子や飲み物を扱っております」


 俺はそこで背負っていた鞄から果物のイラストが乗ったアメの袋とポテチの袋、そしてオレンジジュースのペットボトルを机の上に並べた。


「これは……!」


 お菓子の袋を見た時点でアルノルトさんは目を見開き、驚いていた。


「娘が言っていたように精巧な絵だ……。素晴らしい……。どこの職人がこれを?」


「職人のお手製というわけではなく、大量資産──つまり、いっぱい作られた品のひとつです。同様の品がこのようにたくさんあります」


 俺は他のお菓子の袋も取り出して机に並べた。


「なんと!」


 アルノルトさんはとにかく驚いていた。


 確かにこのような写実的なイラストや写真はこの世界では珍しいものなのだろう。今でこそ表現技法やツールが充実しているものの、中世にこんなに写実的な絵は溢れていなかったはずだから。……多分。


 選択した世界史で美術史は滅茶苦茶苦手だったので、あまり覚えてないのである。


「こ、これはいくらぐらいで売っているのだろうか?」


 アルノルトさんはそう言ってアメの袋を見せる。


「そうですね……。200円くらいです」


「エン? ドゥカートに換算するといくらになるのかね?」


「ド、ドゥカート? いや、為替レートが分からないので……」


 ドゥカートなんてお金の単位は初耳だ。


「ああ。そうです、そうです。銀でいうと1グラム程度で。つまりは、銀貨1/4枚程度ですね」


 そうだった。この前、リーゼロッテさんから受け取った銀貨がいくらくらいが調べていたのだ。それによれば今は1グラムの銀が200円くらいらしい。そして、この銀貨が4グラムほど。


「このお菓子が銀貨1/4枚!?」


 アルノルトさんはまじまじと袋を眺める。


 え? 何だろう……? ひょっとして高すぎた……? 確かに最近の日本の物価はインフレしてるけど……。


「金貨ではなく、かね?」


「いえいえ。銀貨ですよ」


 金なんてもっと相場が上のはずだ。数百円のお菓子にそんな値段はつかない。


 ちなみにあとで聞いた話だが、この世界では銀貨1枚は庶民の1日の稼ぎだそうだ。


「……う~む……」


 俺の答えにアルノルトさんは考え込んでしまった。


「ニナを呼んで来てくれるか」


「はい」


 そこでアルノルトさんはニナさんを呼んだ。


「お父様。どうなさいましたか?」


 そしてニナさんが待機していたようにすぐにやってきた。


「ニナ。このお菓子、お前ならばいくら値段を付ける?」


「そうですね。金貨5枚は固いかと。売る相手を選べばもっと高値で売れます」


「やはりそうだな。だが、ジン君はこれは銀貨1枚足らずだというのだ」


「その点はリーゼロッテに説明していただきましょう」


 ニナさんはそう言ってリーゼロッテさんに発言を促す。


「はい、ニナ様。グリムシュタット伯閣下、ジンさんは異世界からいらっしゃった方なのです。そして、異世界はこのグリムシュタット村より進んだ技術があるようなのです。ジンさん、さっきのカメラの映像をグリムシュタット伯閣下に」


「はい。これを見ていただけますか?」


 俺はポケットからスマホを取り出し、録画したリーゼロッテさんの映像をアルノルトさんに向けて見せた。


「……これは確かに我々の理解の及ぶところではないね……」


 カメラの映像を見たアルノルトさんは深々とため息を吐いた。


「しかし、ジン君。君は商人だ。我々と取引してくれるだろうか?」


「この村では以前祖父がお世話になっております。その恩を返せるならばぜひ」


「そうか。君は義理堅く、誠実なのだな。素晴らしい」


 アルノルトさんはそう言ってうんうんと真剣に頷いていた。


「ですが、です、ジン。このお菓子がいくら銀貨1/4枚分の値段だとしても、その値段で買い取ることはできません」


 ここでニナさんがぐいと前に出て言う。


 ニナさんは金貨5枚で貴族に売れると言っていたが、やはりただのアメ一袋に銀貨1/4枚は高すぎただろうか……?


「それでは安すぎるのです」


「……え?」


……………………

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― 新着の感想 ―
若干のインフレ気味だけれど基本的には安いからなぁ。ただし運送費用を含めると中々の微妙な価格になっちゃうのが世知辛い。
値付けって本当に難しいなぁ
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